【書評】井上真偽『ぎんなみ商店街の事件簿 BROTHER編』の要約と考察/これからあなたが目にするのは、ある事件のひとつの側面にしかすぎません
人の数だけ真実がある物語は、かつて寺の門前町として栄えた通りに位置するぎんなみ商店街を舞台に語られます。Brother編の主人公は、ぎんなみ商店街を見下ろす坂の上のマンションに住む4兄弟。長男元太、次男福太、三男学太、四男良太。彼らの名前の由来はとある絵本にあり、登場人物のキャラクターの名前になぞらえています。また、兄弟それぞれの性格もそれに由来します。元太の「元」は元気の「元」―自分の力で誰かを元気づけられるように。福太の「福」は幸福の「福」―誰よりも幸福な人間になって、それで周りの人も幸せにするように。学太の「学」は学びの「学」―色々な人生経験を積むように。良太の「良」は良心の「良」―ずるいことはしない。困っている人を見たら助けてあげる。自分の心に恥じない生き方をするように。絵本になぞらえている理由として、兄弟の母が絵本作家だったことが関係しています。ただ、作中では既に亡くなってしまっています。兄弟は母の思いを胸に、街で度々起こる事件を解決していきます。解決する事件は殺人事件等のような重たいものではなくちょっとしたものです。ただ、兄弟は事件を解決することで、母との思い出を再確認し、家族の絆を深めていきます。ぎんなみ商店街を舞台に語られる"家族愛"Brother編は家族の人物描写がとても豊かです。特に、個性ある兄弟の得意なところを生かしながら、仲良く推理をする様子は微笑ましく感じます。