【書評】『推し、燃ゆ』 -あなたにとっての「背骨」は何ですか?

宇佐見りん・著


「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい」。高校生のあかりは、アイドル上野真幸を解釈することに心血を注ぎ、学校も家族もバイトもうまくいかない毎日をなんとか生きている。そんなある日、推しが炎上し―。第164回芥川賞受賞のベストセラー。時代を映す永遠の青春文学。2021年本屋大賞ノミネート。

(河出書房新社より)

書評



私には”推し”というものがいない。

本書を手に取ったのは、”推し”がいる人々の気持ちを追体験したいと思ったからだ。

この本を読むことで恐らくそれは達成できた。





主人公は学校にも家庭にもバイト先にも居場所がないと感じている女子高生あかり。

そんな彼女の生きがいはアイドルである“推し”“推す”こと。

“推す”ことが彼女の人生の唯一の生きがいであり存在する意味だった。

推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。

(本文より)


本書は、この衝撃的な一文から始まる。

推しが推せなくなる。

あかりは絶望した。

推しが燃えたことで、ただでさえままならないあかりの人生は更に転落を始める。


推しとは


推しという言葉は主に、”人に薦めたいと思うほどに好感を持っている人物”に使われるが、それだけの単純な意味とも言えない気がする。

広辞苑で調べてみると、「推し」は載っていなかったが「推す」で下記のように書かれていた。

事物を上・先へ進めるように他から力をいれる

(広辞苑 第六版より)


あかりは、彼女自身だけで前へ進めるほど強い人間ではない。

前に進むには、”推し”という自らの支えとなるような外的な要因が必要不可欠なのだ。

作中ではそれを、背骨と表現している。


あなたにとっての背骨は何だろうか


現実の世界で“推し”がいない人も、自分にとっての背骨となるものを考えながら読めば、あかりの苦しさを理解できるかもしれない。




※以下考察・感想。内容についてネタバレを含んでいます。未読の方はご注意下さい。







私は人に興味がある。

そして、自分とは異なる人を理解しようとする為に本を読んだり、映画を見る(こともある)。

本書も、自分とは違う、「”推し”がいる人」を理解するために手に取った。

結果的にはまだ書評を書くべきではないのかもしれない。

まだ、自分の中で納得がいかない部分が多いからだ。本書はこれからも読み返すことがあるだろう。

それでも、今の時点での感想をつらつらと記そうと思う。


あなたにとっての背骨は何だろうか

私にとっての背骨とは何だろうか。

考えてみるとぱっと思いつかない。読書、それもあるだろう。生きていくために必要なものだ。ただ、本書で記されるような背骨とは何かが違う気がする。

私には憧れるような人物はいない。私は私、他の何者でもないという意識が強いからだろうか。

自分が自分でいる為に参考にするものはあれど、生きる気力が湧いてくる程活力が芽生える、生活の支えとなるようなものとは今まで出会ったことはないのかもしれない。

それは少し寂しい事な気がするが…。


主人公あかりは、”推し”の「解釈」に信念を燃やす。

”推し”の出演する全てを見、記録をして、推しへの解釈を膨らませ、「”推し”の見る世界」を見ようとする。自分が考え、自分が見る世界ではなく、自らの光である人物の「目」と同化しようとする

あかりは”推す”ことで”推し”と同化しようとした。そして、まるでそれは背骨のように自らの軸となり、生きる意味をもたらした。

ただそれは同時に、自分を失っていくことに他ならない。自分の「目」は、”推し”の「目」なのだから。だから”推し”が燃えた時、自らもまた燃えてなくなった。...ように感じた。


しかし、あかりは生きていかなくてはならない。あかりと”推し”は結局は違う人物なのだから。

小説の最後、あかりは綿棒をひろう。お骨をひろうみたいに丁寧に。背骨を失ったあかりは二足歩行はまだ出来ない。まだしっかりと自分の足で立つことは出来ない。でも、這いつくばりながらでも前に進むことは出来る。当分はそれで良い。

あかりの部屋には窓から光が差し込み、部屋全体を明るく晒し出す。


あかりは推しのいない世界でこれからどうやって生きていくのだろうか。

また新たな推しを見つけるのか、それとも自分自身だけで生きていく決心をするのか。

その結末は分からないが、この最後の描写から分かるのは、きっとどんな世界でも生きていける未来はあるのだろう。


著者紹介

著者である宇佐見りん(うさみ・りん)さんについて、

1999年静岡県生まれ、神奈川県出身。2019年『かか』で文藝賞を受賞しデビュー。同作は史上最年少で三島由紀夫賞受賞。2021年『推し、燃ゆ』で芥川賞を受賞。その他の小説に『くるまの娘』がある。

作風としては、今を生きる時に感じる生きづらさを小説に綴り、多くの読者から共感を呼ぶ。



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