純文学

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日常

【書評】桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』の要約と考察/生き抜けば大人になれたのに

物語冒頭で描かれる、少女のバラバラ遺体。その残酷な事件に向かって、一筋に物語は進んでいく。主要登場人物は2人。2人の主人公は、貧困、虐待と、この世界を生きるには到底厳しい境遇をもつ。しかし彼らは、そんな不幸な現実と戦う。現実に打ち勝つために。生き残るために、“実弾”を手に入れようとする少女、山田なぎさ自らを人魚と名乗り、”砂糖菓子の弾丸”を撃ち続ける少女、海野藻屑二人の出会いから紡がれる、一月程度の物語。彼らは”砂糖菓子の弾丸”を手に、どう生きていくのか。今を生きているという事がどんなに幸せか、考えさせられる作品だ。
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【書評】長野まゆみ『野ばら』の要約と考察/真夏の夜のフェアリー・テール

月彦が迷い込んだのは、現実と夢の狭間の世界。月彦は夢を見る。その夢が覚めた時、月彦は一体どこにいるのか。いつから夢の中にいて、どこまでが夢の中なのか。何故そこにいるのか。月彦は夢のような世界の中で、銀色と黒蜜糖と出会う。知り合いのようで知らない少年たち。彼らは一体誰なのか。白い野ばらの花弁が降り注ぐ学園では、まるで水に絵の具が溶けていくようにその様相は姿を変えていく。野ばらの垣根を越えられない猫のように月彦はその世界から出られない
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【書評】谷崎潤一郎『春琴抄』の要約と考察/究極美麗なマゾヒズム

『春琴抄』はマゾヒズムを究極まで美麗に描いた文学である。※以下あらすじ・感想。内容についてネタバレを含んでいます。未読の方はご注意下さい。美しき盲目の琴曲の名手、春琴。しかしその性格は驕慢で我儘。ある日春琴に、世話係として丁稚奉公の佐助があてがわれた。佐助は、春琴からどんなに理不尽に折檻を受けても、献身的に尽くし続ける。それは不気味なほどに。やがて佐助は春琴と深い関係になり、子を儲ける。だが気位の高い春琴は、その子を佐助との子と認めなかった。両親は二人に結婚を勧めるが、佐助もそれを拒んだ。そんなある日、春琴は何者かに熱湯を浴びせられ、顔に火傷を負う。美貌を失った春琴は、佐助に見捨てられることを恐れ、「見るな」と命じる。佐助はその言葉を受け、自らの両目を針で突き刺し、視力を失う。そして、春琴と同じ世界を味わえることに、深く喜んだ。
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【書評】山尾悠子『歪み真珠』の要約と考察/それは夢か現か、荘厳美麗な幻想小説

このような美しい文章を紡ぐことが出来る才に感服する。本書は15篇から成る掌編作品集。歪み真珠『歪み真珠』とは、芸術様式の一つ「バロック」の原義とされる。広く知られるように「バロック」とは、ルネサンス後の16世紀末〜18世紀前半にヨーロッパで流行した豪壮・華麗な芸術様式であり、転じて不条理、不整形なものの意。その名を冠する本作は圧倒的な「荘厳」。洗練された優美な文体、物語の細部に至るまで緻密に描かれた装飾は見るものすべてを魅了する。物語の一遍一遍がまるで宝石の粒のようだ。
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