山田詠美

日常

【書評】山田詠美『血も涙もある』の要約と考察/極上の“危険な関係”が行きつく先は

「私の趣味は人の夫を寝盗ることです」こんなことを言ったら、もう世間では非難轟轟でしょう。巷ではよく芸能人同士の〈不倫〉が騒がれています。そもそも〈不倫〉とは、漢字二文字では到底納まりきらない男女の愚鈍な姿態が存在します。血も涙もある人間の、滑稽さ、残酷さ。其のすべてが焙り出されるものです。本書『血も涙もある』は、そんな不倫を当事者の視点によって描いています。本書は全十章、交互に展開される当事者たちのモノローグで語られます。魅惑的な【料理】によって匂い立つ、男女の危険な関係本小説で特筆して面白いのは、男女の恋愛の官能性を引き立てる隠喩として、【料理】を用いているところです。【料理】を比喩表現として使用する場合、小説でよく見るのは、登場人物の心情表現を【料理する際の仕草】で表したり、目の前の人やものに対して、その状態を【料理のメニュー】で表したり、といったところでしょうか。しかしこの小説の【料理】の使い方は一味違います。【料理】の持つ匂い、見た目、その構成材料に至るまで、各々の【料理】の特性が複雑に絡まり合い、【料理】の持つ全てをもって"不倫"という男女の不安定な関係性を表しています。もうなんて説明したらいいのかすら分かりませんが、
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