【書評】梨木香歩『西の魔女が死んだ』の要約と考察/この世界を生きていくために
主人公のまいは、感受性が強く、いわゆる生きにくいタイプの子です。中学校でいじめにあい、心が深く傷ついてしまったまいは、母の勧めでひと月あまりの期間をおばあちゃんの家、――西の魔女の家で過ごすことになります。魔女の家で過ごしていく中でまいは、「魔女修行」と呼ばれるものを始めることになります。それは、日々を生きていくための術を学ぶ修行。まず、早寝早起き、食事をしっかりとる。瑞々しい空気を吸い、季節を感じる。そして、自分のことは自分で決める。魔女と過ごした自然に囲まれた規則正しい日々は、傷ついたまいの心を少しずつ溶かしていきます。魔女とはこの物語に登場する「魔女」とは、いわゆる黒い服を着て、箒で空を飛ぶイメージの魔女とは異なります。「魔女」とは、先祖から語り伝えられてきた知恵や知識を頼りに、身体を癒す草木に対する知識や荒々しい自然と共存する知恵を持ち、予想する困難をかわしたり、耐え抜く力がある人のことです。つまりは、日々を"生きていく"能力がとりわけ高い人を「魔女」と呼んでいます。"生きていく"、ということは、とても大変なことです。人間関係、将来への不安、次から次へと困難が訪れるこの世界で、どうやって生きていけばいいのか。ふとした瞬間にひとり、空虚な世界に取り残されたかのような感覚に陥ることがあるでしょう。そんな時に重要なのが、自分らしく生きていくための精神力、そして、決断する力。