中野京子

芸術

【書評】中野京子『異形のものたち』の要約と考察/絵画のなかの「怪」を読む

本書『異形のものたち』では、尋常ならざる形態に魅入られた画家たちによる欲求を、美麗な絵画の解説とともに紹介してくれます。この世にないものに対する「見たい」という好奇心、曰く言い難い気配や雰囲気の絵画的創出、本書は、そんな「怪」を、人獣、蛇、悪魔と天使、キメラ、ただならぬ気配、妖精・魔女、魑魅魍魎のキーワードをもとに語っています。しかし、「異形」を画題にした絵画と聞くとどこか物珍しく感じるかと思いますが、古来から伝わる神話や宗教では、当然のように「異形」は登場します。そう考えると、「異形」とはそもそも物珍しいものなどではなく、人間心理の根底では情念の対象なのでしょう。古今東西異形フェチには本書を是非おすすめします。
歴史

【書評】中野京子『印象派で「近代」を読む』の要約と考察/光のモネから、ゴッホの闇へ

印象派について、どんな”イメージ”を持っているでしょうか。やわらかい色彩、まるで光を映したのかというように明るく、自在で魅力的なタッチ。多くの共通認識はこうでしょう。しかし本書を読むと、その認識は少なからず覆されます。印象派の時代印象派を語るうえで外せないもの、それは時代です。印象派は現代ではごく当たり前に受け入れられ、世界中で愛好されていますが、19世紀後半のパリではそうではありませんでした。批評家からは皮肉交じりに酷評され、一般的な認識としては嘲りの対象でした。それも、かつてのパリの絵画の常識を考えれば納得は出来ます。当時は新古典主義の考え方が浸透しており、神話や重厚な歴史をテーマに描かれていました。粗のないきめ細かな仕上げ、写実的なデッサンによる美しさ、安定した構成が重要視されていました。それは印象派が掲げる技法や構図とは正反対のものだったのです。印象派とは、穏やかなイメージとは異なる、ある種の反逆性を秘めているのです。本書『印象派で「近代」を読む』は、印象派絵画の解説とともに、その時代背景においても深く言及されています。著者は本文中でこう語っています。
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