山尾悠子

純文学

【書評】山尾悠子『歪み真珠』の要約と考察/それは夢か現か、荘厳美麗な幻想小説

本書は15篇から成る掌編作品集です。歪み真珠『歪み真珠』とは、芸術様式の一つ「バロック」の原義とされます。広く知られるように「バロック」とは、ルネサンス後の16世紀末〜18世紀前半にヨーロッパで流行した豪壮・華麗な芸術様式であり、転じて不条理、不整形なものの意を表します。その名を冠する本作は、圧倒的な「荘厳」。洗練された優美な文体、物語の細部に至るまで緻密に描かれた装飾は見るものすべてを魅了します。物語の一遍一遍がまるで宝石の粒のようです。しかし、その粒をふと見たとき、歪なものが紛れています。物語のそれぞれに繋がりはありません。しかし、一つの大きな世界の中の出来事としては繋がっているのでしょう。まるで澄んだ静謐な空間の中に夢を見るように迷い込み、進んでも戻っても出口がないような。しかし不思議と恐怖は無い。この世界に永遠に浸りたい、美しき宝石たちを綺麗に陳列して、唯ひたすらに愛でていたい、というような快楽すら感じます。泉鏡花文学賞を受賞した著者による珠玉の掌編作品集。煌めく夢のような世界を堪能したい方に是非。
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