米澤穂信

ミステリ

【書評】米澤穂信『満願』の要約と考察/人間の心の闇を覗き見る

表題作である『満願』をはじめ6編から成る短編集。短編集なのですが、それぞれの物語がまるで一冊の本を読んだかのように重厚でした。本作は一貫して人間の心の闇を描いています。作中ある人は自らの信念を貫き通すために、またある人は秘密を守り切るために、もしくは心が弱すぎるがために、一線を越えてしまいます。どの物語も犯人を暴くようなミステリではありませんが、真相に近づくにつれて、読みながら感じる違和感がどろどろとした恐怖に変化します。また、題材が全て異なりトリック、結末もどれも鮮やかなため永遠に読んでいたい没入感を覚えました。上質な短編ミステリを探している方におすすめできる小説です。
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【書評】米澤穂信『儚い羊たちの祝宴』の要約と考察/物語の世界に逃げ込みたい、夢想家の方々へ

米澤穂信による暗黒ミステリ。耽美な筆致が得体のしれない恐怖をもたらし、読むものを魅了します。恐怖といえども内容は仄めかす程度で、だからこそ心地よく、だからこそ美しい。本書は短編5篇から成りますが、それらに殆ど関連性はありません。一点、「バベルの会」という読書倶楽部の存在を除いては。読書倶楽部「バベルの会」あなたは物語の中に逃げ込みたいと思ったことはありますか?はたまた物語の登場人物のように生きたいと思ったことはあるでしょうか?「バベルの会」に集うのは良家の“夢想家の”お嬢様たち。会合の中で何が語られ、何が行われるのか。その内容について、作中で深く言及されることはありません。ただ本書に登場するお嬢様たちは、皆良家のお嬢様としての顔を保って生きることを周囲から期待されています。些細な振る舞い、言動に至るまで。共通するのは、彼女たちは皆、表の顔とは異なる、内なる欲望を持っています。その欲望とは、柵のある現実から解放されて、異なる人物のように生きること。それは現実がつらく物語に幻想を求めているのか。あるいは現実が単純すぎて、物語を生み出して楽しんでいるのか。作中で「バベルの会」会長は、会員たちをこう説明しています。
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