【書評】織守きょうや『花束は毒』の要約と考察/悪人は必ず罰せられるべきか

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こんにちは、lamです。今回は『花束は毒』織守きょうや・著についてご紹介します。

内容紹介

本のあらすじ

未来屋小説大賞受賞!
芳樹は憧れのかつての家庭教師・真壁が結婚を前に脅迫されていると知り探偵に調査を依頼するが――。完全に騙される傑作ミステリー。

憧れの家庭教師だった真壁が結婚を前に脅されていることを知り、僕は尻込みする彼にかわり探偵事務所に調査を依頼。そこに現れたのは中学時代にいじめに遭っていた従兄をえげつない方法で救ってくれた先輩の理花だった。調査を進めるにつれ、見えてきた真実。背筋も凍るラスト。気鋭のミステリ作家による、衝撃の傑作長編!


「僕」こと木瀬芳樹は、とても正義感の強い主人公です。

従兄が虐められていることに気が付いたら、これ以上いじめられないように働きかけ、

昔お世話になった大切な人の元に脅迫状が届いたら、自らのお金を使ってまで犯人調査を探偵に依頼します。

「悪人を罰することは必ずしも人の役に立つ」

「自分がして欲しいことは、相手もして欲しいことに決まっている」

木瀬は、検事正である父親に倣い、悪を憎み罪は正しく裁くを信念として行動をしています。


それが絶対に正しい事なのだと信じて。


それ以外の可能性があることを信じていない彼は、

例外が起こったときにどういう対応をするのでしょうか。



本書は、《罪を正しく裁く、という事はどんなに難しいか》考えさせられる作品です。



こんな人におすすめ

探偵ものが好きな人

フーダニット(Who done it)小説が好きな人

イヤミスが好きな人


著者紹介

著者である織守きょうや(おりがみ・きょうや)さんについて、

1980年イギリス・ロンドン出身。2012年『霊感検定』で第14回講談社BOX新人賞Powersを受賞しデビュー。2015年『記憶屋』で日本ホラー小説大賞、2021年『花束は毒』で第5回未来屋小説大賞受賞。その他の小説に、『記憶屋シリーズ』『黒野葉月は鳥籠で眠らない』『彼女。 百合小説アンソロジー』『消えた花婿』等、多数の著書があります。

作風としては、元弁護士としての知識を活かし、法律に関わる人物がよく登場します。







※以下感想・考察。内容についてネタバレを含んでいます。未読の方はご注意下さい。

『花束は毒』の感想・考察


悪人は必ず罰せられるべきか



本書は、「悪人は必ず罰せられるべきか」問うている作品だと思います。


物語の前半、従兄の聡一が虐められているのを目撃した木瀬は、

当時探偵見習だった北見さんに、いじめの犯人にいじめをやめさせるように依頼しました。

北見さんのおかげでいじめはなくなりましたが、犯人は学校に来られなくなり、転校をしてしまいます

その結果を見た木瀬はショックを受け、北見さんに詰め寄ります。

聡一兄さんを助けてくれて、感謝してるけど、僕も聡一兄さんも、あんな結果を予想してお願いしたわけじゃないんです。あんなこと、望んでなかった

(本文より)


木瀬は犯人が改心して聡一に謝り、そのまま平穏に学生生活を送ることを期待していたのでしょう。

自分で依頼しておいて、その結果を予想できないのはあまりにも楽観的かと思いますが、

これは検事正の息子であり正義感の強い木瀬らしさを象徴した反応です。

というのも、日本における罪を犯した人の扱い方としては、基本的に社会の中で適切に処遇し、更生を促します。

北見さんの方法では、更生をさせることはせずにただ遠くにやるだけで、

それが木瀬の心に引っかかったのでしょう。

悪いことをしたらちゃんと指導し、反省させて更生をさせる。

それが将来法律家になるであろう木瀬の方針です。



それでは、本編の犯人であるかなみへの対応はどうでしょうか。

物語の最後、真壁さんかなみを伴って近づいてくるとき、木瀬はかなみを裁く判断を下せずにいます。

本来の彼の方針ならば、迷うことなく彼女を断罪すべきです。

今までの彼なら迷わず断罪していたと思います。

しかし彼は「悪人は必ず罰せられるべきか」迷っている。

それはなぜか。

まず木瀬は彼女を裁いたところで大した罰も与えられないことを分かっています。せいぜい執行猶予がつくくらい。

それなのにも関わらず、彼女がしたことによって被害者である真壁はもちろん、木瀬や北見さんにまで深い絶望をもたらすことになるでしょう。

木瀬が彼女を断罪しなければ、誰も絶望することはありません。

罪を裁くことは必ずしも幸せな結末にはならないことを、彼は学んでしまったのです。


最後の一行は、正義感の強い彼の軸がぶれる瞬間でした。


恐ろしい作品でしたね!



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