【書評】『西の魔女が死んだ』 -この世界を生きていくために

梨木香歩・著


中学に進んでまもなく、どうしても学校へ足が向かなくなった少女まいは、季節が初夏へと移り変るひと月あまりを、西の魔女のもとで過した。西の魔女ことママのママ、つまり大好きなおばあちゃんから、まいは魔女の手ほどきを受けるのだが、魔女修行の肝心かなめは、何でも自分で決める、ということだった。喜びも希望も、もちろん幸せも……。その後のまいの物語「渡りの一日」併録。

(新潮社より)

書評


この本との出会いは中学生の時、読書感想文の課題図書の一つとして手に取った。

それから十数年、今も私の心に深く残っている。

『西の魔女が死んだ』は、心が弱っているときにそっと助言をくれる、優しい物語だ。



本書は2008年に実写映画が公開されている。

個人的に、小説の雰囲気や伝えたいことを崩さない良い実写化だなと感じたので、こちらも併せて紹介する。






主人公のまいは、感受性が強く、いわゆる生きにくいタイプの子である。

中学校でいじめにあい、心が深く傷ついてしまったまいは、母の勧めでひと月あまりの期間をおばあちゃんの家、

――西の魔女の家で過ごすことになる。



まいは、魔女の元で魔女修行を始める。

それは、日々を生きていくための術を学ぶ修行

まず、早寝早起き、食事をしっかりとる。

瑞々しい空気を吸い、季節を感じる。

そして、自分のことは自分で決める

魔女と過ごした自然に囲まれた規則正しい日々は、傷ついたまいの心を少しずつ溶かしていく。



魔女

この物語に登場する「魔女」とは、いわゆる黒い服を着て、箒で空を飛ぶイメージの魔女とは異なる

「魔女」とは、先祖から語り伝えられてきた知恵や知識を頼りに、身体を癒す草木に対する知識や荒々しい自然と共存する知恵を持ち、予想する困難をかわしたり、耐え抜く力がある人のこと。

つまりは日々を生きていく能力がとりわけ高い人を「魔女」と呼んだ。


"生きていく"、ということは、とても大変なことだ。

人間関係、将来への不安、

次から次へと困難が訪れるこの世界で、どうやって生きていけばいいのか。

ふとした瞬間にひとり、

空虚な世界に取り残されたかのような感覚に陥る。



そんな時に重要なのが、

自分らしく生きていくための精神力、そして、決断する力

魔女修行は、この世界を生きていく為の精神を鍛える修行だ。



いったん落ち着いて外の空気を吸う、そして丁寧に生活を営む。小さなことにも幸せを見出す。

まずはそれから。



人生に悩んでいる人、生きるのが苦しい人は、本書を是非読んでみて欲しい。

生きる理由を教えてくれる。



著者紹介

著者である梨木香歩(なしき・かほ)さんについて、

1959年鹿児島県出身。児童文学者のベティ・モーガン・ボーエンに師事する。1994年『西の魔女が死んだ』で日本児童文学者協会新人賞、新美南吉児童文学賞、第44回小学館文学賞を受賞しデビュー。1996年『裏庭』で児童文学ファンタジー大賞、2006年『沼地のある森を抜けて』で第5回センス・オブ・ジェンダー賞と紫式部文学賞、2011年『渡りの足跡』で第62回読売文学賞を受賞。その他の小説に、『家守綺譚』『からくりからくさ』『ピスタチオ』『雪と珊瑚と』『冬虫夏草』等、多数の著書がある。

作風としては、動植物のような自然に生きる存在に深い造詣を持ち、"生命"を叙情性豊かな文章で繊細に書く。

『西の魔女が死んだ』は、2008年サチ・パーカー主演で映画化。



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