綾辻行人・著
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十角形の奇妙な館が建つ孤島・角島を大学ミステリ研の7人が訪れた。館を建てた建築家・中村青司は、半年前に炎上した青屋敷で焼死したという。やがて学生たちを襲う連続殺人。ミステリ史上最大級の、驚愕の結末が読者を待ち受ける!
すべてはここから。清冽なる新本格の源流!大学ミステリ研究会の七人が訪れた十角形の奇妙な館の建つ孤島・角島。メンバーが一人、また一人、殺されていく。「十角館」の刊行から二十年。あの衝撃を再び!
(講談社より)
書評
綾辻行人といえば「館」シリーズ。その第1冊目とのことで購入。
本作品は国内ミステリの傑作の1つとして知られる。
ある日、建築家 中村青司の幽霊が出ると聞きつけ、大学のミステリ研に所属する青年たちが孤島に訪れた。
その孤島の名は"角島"。かつて凄惨な事件が起きた現場だ。
S半島J崎沖、角島の中村青司邸、通称青屋敷が炎上、そして全焼。焼け跡から、中村青司と妻の和江、住み込みの使用人夫婦の計4人が死体で発見された。
4人の死因は一様ではなく、加えて和江夫人の左手首から先は見つからなかった。
青年たちは角島にある中島青司が設計した十角形の建築『十角館』に滞在し、かつて孤島で起きた事件の推理に勤しむ。
彼らはお互いを著名なミステリ作家のあだ名で呼び合い、
暫く孤島での生活を楽しんでいたが、
やがて、一人、また一人と青年たちは殺されていく。
その殺され方は、かつてこの島で起きた凄惨な事件の概要と似通っていた。
また孤島での事件が起きる同時刻、元ミス研江南考明の元に、とある怪文書が届く。
しかもどうやら、その怪文書はかつての孤島での噂と関係があるらしい。
江南は同じくミス研のメンバーである森須と、ふとしたきっかけで出会った島田潔という青年と共に、事件の真相を探る為奔走する。
果たして犯人は誰なのか、事件の動機は何か、そして、どのように犯行が行われたのか
二つの場所で起きた事件は、どう関わっているのか。
「孤島」というクローズド・サークル
事件が起きる孤島”角島”は周囲が海に囲まれ、移動手段も連絡船しかない所謂クローズド・サークルだ(何らかの事情で外界との往来が断たれた状況の意)。
クローズド・サークルはミステリ界ではよく用いられる設定だが、『十角館の殺人』において、より特筆的に推理を面白くさせているのは、孤島だけではなく本島の視点からも事件の解明が描かれているところだ。
孤島、本島、孤島…と、同時進行で交互に物語が進行されることで、孤島の中だけでは知りえなかった事実が究明され、事件の本質が少しずつ明らかにされていく。
その感覚は恐らく当時刊行された時点では中々に新体験で、物語が評価されている一つの要因となるだろう。
ハウダニットとホワイダニット
また、もう一つ主な要因を挙げるとすると、『十角館の殺人』は、ハウダニット(How done it)とホワイダニット(Why done it)が同時に味わえる小説である、というところだ。
ハウダニットとは、犯行方法やトリックの解明など、「どのように犯行を行ったか」、ホワイダニットは「犯行の動機は何か」、が主軸となるミステリである。類似の用語に、フーダニット(Who done it)→「誰が犯人か」も存在する。
これらの分類は主に本格推理小説に使われる分類であり、かの有名なミステリの女王アガサ・クリスティの小説にもその特徴は度々見られる。
通常ミステリ作品は上記の3つの分類のうち、1つだけを主軸として書かれる構成が多いのだが、本作品の面白いところは、2つの分類を同時に用いているところだ。
ではどうやってそれを実現させているのか、それも、孤島+本島という2つの場所から1つの事件を書く手法が効いている。
孤島のパートでは、そのクローズド・サークルという状況から、ハウダニットを中心に描かれる。閉じ込められた状況から、どうやって犯行が行われたかが主に焦点となる。
本島のパートでは、探偵役に届けられた怪文書とかつて角島で起きた凄惨な事件との繋がりから、ホワイダニット、何故犯人が怪文書を書いたのか、その動機を焦点にあてられる。
最終的には、その2つの事件の解明から、全体的な1つの事件の犯人の究明にまで繋がるのが見事だ。
またその繋がり方が、本書のキャッチコピーとなっている「衝撃の一行」にて明かされるのもまた美し
い。
『十角館の殺人』は、緻密な伏線と、とても鮮やかに事件が解決されるミステリの良書だ。
たったの1行で事件が解決される、その感覚を味わいたい方に是非。
※以下感想。内容についてネタバレを含んでいます。未読の方はご注意下さい。
本の帯に書かれているキャッチコピーは「衝撃の一行に震える!!」。
その一行を作中で発見した時、図らずも震えてしまった。
犯人は物語の途中から何となく彼かな、とは察していたものの、まさか守須がモーリス・ルブランではなくヴァン・ダインとは。衝撃の一行を発見するまで全く気が付かなかった。まさに衝撃。
「映像化不可能」という触れ込みをどこかで見たが、この作品は確かに映像化できない。
コミカライズはされているみたいだが、どうやって守須と「彼」を描き分けているのだろう、気になる…。
しかしそれ以外の面では、うーん物語としての面白さは普通かなと感じる。
いや、とても美しく纏まっているミステリなのだが…。
本作品はかの有名なアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』をオマージュした作品、とも語られるが、(恥ずかしながら同著を読んだのが遥か昔の為、記憶がおぼろげなのだが)トリック、構成、動機と、既視感が拭えず目新しいものではなかった。
『そして誰もいなくなった』をしっかりと覚えている人ならば、両方を読み比べて違いを楽しむ、という楽しみ方もあるかもしれないが。
『十角館の殺人』は、よくミステリランキングの上位(1位のことが多い)に君臨しているため、少し期待しすぎてしまったのも敗因。
当時の感覚で読めばまだ驚きが多く楽しいのかもしれないな。ミステリを読み過ぎてしまった...。
この物語は、あくまで『そして誰もいなくなった』をリスペクトして書いた作品であり、加えてあの「衝撃の一行」のための伏線が散りばめられた作品と思って読むと良いのかなと思う。
◆追記
映像化不可能と言われていた本小説、なんと2024年3月22日huluにて映像化決定!
これはあのトリックがどう表現されているのか、楽しみ。見なければ!(2024年1月現在)
著者紹介
著者である綾辻行人(あやつじ・ゆきと)さんについて、
1960年京都府出身。1987年『十角館の殺人』でデビュー。「新本格ミステリ」ムーヴメントの嚆矢となる。1992年に『時計館の殺人』で第45回日本推理作家協会賞を受賞。2018年には第22回日本ミステリー文学大賞を受賞。その他の小説に、『Another』『霧越邸殺人事件』『どんどん橋、落ちた』『フリークス』『緋色の囁き』『殺人鬼』『眼球綺譚』『深泥丘奇談』『最後の記憶』等、多数の著書がある。
作風としては、物理トリックよりも叙述トリックを得意とし、多くの作品にどんでん返しの構図が見られる。またホラー、幻想文学の影響も色濃く、ミステリー作品においても心象描写の多い叙情的な文体を用いる。
『十角館の殺人』は現在は新装改訂版につき、旧版から大きく加筆修正されている。また2019年に月刊アフタヌーンにてコミカライズされている(全5巻)。
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