【書評】五十嵐律人『法廷遊戯』の要約と考察/目には目を、死には死を

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こんにちは、lamです。今回は『法廷遊戯』五十嵐律人・著についてご紹介します。

内容紹介

本のあらすじ

第62回メフィスト賞受賞作!
法律家を志した三人の若者。 一人は弁護士になり、一人は被告人になり、一人は命を失った──謎だけを残して。
法曹の道を目指してロースクールに通う、 久我清義(くがきよよし)と織本美鈴(おりもとみれい)。二人の“過去”を告発する差出人不明の手紙をきっかけに、 彼らの周辺で不可解な事件が続く。清義が相談を持ち掛けたのは、異端の天才ロースクール生・結城馨(ゆうきかおる)。真相を追う三人だったが、それぞれの道は思わぬ方向に分岐して──?

(講談社より)


むこ【無辜】

《「辜」は罪の意》罪のないこと。また、その人。



この物語には、いくつかの「冤罪事件」が登場します。



とある人物は、事件に巻き込まれ罪を背負うことになりました。

しかし彼は罪を犯していない。これは冤罪です。

彼は、不当な判決に嘆き苦しみました。

「どうして自分が」

「何としても復讐をしたい」


罪を擦り付けた本当の犯人に償わせるには、どんな罪が妥当なのでしょう


目には目を、歯には歯を



これは、世界最古の法典《ハンムラビ法典》に記された一節。

要するに、やられたらやり返せ。

この言葉が意味するのは同害報復

犯した罪には、相応の報復を。

視力の対価は、視力を奪うことで許してあげなさい。

正当な対価で相手を許してあげる、寛容の論理だ。

(本文より)


つまり、

誰かの命を奪った犯人には、

それが事故だろうが殺人だろうが、

最終的に被害者が亡くなったのだとしたら

一律に死をもって償わせなくてはならない。

死には死を

正当な対価で許してあげましょう




この物語の主要登場人物は3人。久我清義、織本美鈴、結城馨。

彼らは全員、過去に悲惨な過去があり、過去をきっかけに法曹を目指しました。

しかし、とある1つの事件によって、

一部の者はその道を閉ざされることとなります。

彼らは、「罪」に対してどのような正当な報いを与えるべきか、または、受けるべきか 。




こんな人におすすめ

リーガル・ミステリーが好きな人

現在の法律に疑問を持っている人


著者紹介

著者である五十嵐律人(いがらし・りつと)さんについて、

1990年岩手県出身。2020年『法廷遊戯』で第62回メフィスト賞を受賞しデビュー。その他の小説に『不可逆少年』『原因において自由な物語』『六法推理』『幻告』『魔女の原罪』『真夜中法律事務所』等、多数の著書があります。

作風としては、現役弁護士という立場を生かし、法律を主題とした作品を執筆する。特に現代司法の矛盾を問いただすような内容が多く見受けられます。

『法廷遊戯』は、2022年にイブニングにてコミカライズ。2023年に永瀬廉主演で映画化されています。(2023年12月現在)






※以下感想・考察。内容についてネタバレを含んでいます。未読の方はご注意下さい。

『法廷遊戯』の感想・考察


リーガルミステリーは、一般的に小難しい法律用語や知らなければいけない知識が多く敬遠されがちかと思いますが、本書は総じて読みやすかったです。

作者自身が法律家だからでしょうか、本来難しいであろう知識が、詳細にロジカルにかみ砕いて説明されていて、法律を知らない初心者にも理解しやすい作品になっていると思いました。

構成も伏線が隅から隅まで張り巡らされ、物語の後半で次から次へと回収されていき、ミステリとしてもとても面白かったです。

情景描写も優れており、さすが作者自身が法律家、特に裁判のシーンの描写がリアルで情景が浮かぶようでした。


清義の罪と罰、そして法律の矛盾


ただ一点だけ、意見を述べるとしたら、清義と美鈴の、罪の意識が全く感じられないところが妙に引っ掛かりました。

幼いころの彼らの境遇には同情します。だが、それは罪を犯すことの理由にはなりません。

金銭を稼ぐためといえ、どうしてそれが犯罪行為につながるのか。

まだ美鈴は本書後半で裁かれたのかもしれませんが、結局はそれも失敗に終わり(冤罪立証され無罪となってしまった)、清義に至っては過去の犯罪行為が明かされることもなく、のうのうと弁護士として成功しています。

法律家であるならば、彼こそ罪を償うべきではなかったのか、とも思います。

しかし、考えていくうちに、その考えは安直なものなのではとも思い直しました。

司法には倫理や道徳というあいまいな基準はなく、あくまでもルールがものをいいます。

判決は下せても、それは裁判で議題に上がった内容がすべて。ルールを通り抜けることさえできれば悪は見過ごされます。

清義の名前の読みは「きよよし」ですが、その呼びにくさからロースクールの同期からは「セイギ」と呼ばれていました。正義のヒーローは、罪を憎み悪を倒す存在ですが清義の場合は、かつて悪を、罪を犯すことによって倒しています。皮肉のようですが。

法治国家日本では、世の中全てのルールは法律です。つまり、その法律というルールを正しく理解し、潜り抜けた者こそが正義なのです。現代司法は、万能なものではありません。理不尽に思うかもしれませんが、そういうものなのです。

そのことを理解し、清義が法の番人である弁護士を目指したと考えれば、

彼の行動は全て理にかなっていたように思います。

ともかく、本作はリーガルミステリとして、とても面白い作品でした。

この小説化著者のデビュー作というのだから驚きです。今後も新作が発表されたら、読んでいきたいです。





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