【書評】村田沙耶香『生命式』の要約と考察/正常は発狂の一種でしょう?

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こんにちは、lamです。今回は『生命式』村田沙耶香・著についてご紹介します。

内容紹介

本のあらすじ

夫も食べてもらえると喜ぶと思うんで――死んだ人間を食べる新たな葬式を描く表題作のほか、村田沙耶香自身がセレクトした、脳そのものを揺さぶる12篇。文学史上、最も危険な短編集!

(河出書房新社より)



本作は、現在の常識から少し外れた人々が登場する短編集です。
本ページではその中から、表題作である『生命式』について書評しようと思います。






あなたは、現在のお葬式のかたちに疑問を覚えたことはありますか



お葬式とは、故人の死を悼み、ご冥福を祈り、別れを惜しむための儀式です。

故人の親族やかつてお世話になった人たちが集まり、厳かに故人の生前を思い出す為の場でもあります。



私たちは、その行為に特に何も思うことは無く、伝統として繰り返します。

それが故人の為を想い、【最も礼を示したかたち】であるから。




しかし、

もし30年後、故人を食べることが一般的な世の中になっていたとしたら、

あなたはその常識ついていけますか?


「いやいやそんな非常識な、失礼にも程がある」

そう思う人は、今一度よく考えてみてください。


故人に生前とてもお世話になったのに、ただ火葬してお墓に埋めてしまうことは、

果たして故人に対し、【最も礼を示したかたち】なのでしょうか?




大切なことを言い忘れていました。

『生命式』とは、

故人を食べながら、男女が受精相手を探し、相手を見つけたら二人で式から退場してどこかで受精を行う儀式です。


この儀式が表すのは、

肉を食べながら故人を弔い、その死から生を生みだす

ということ。

人間はいつか死んでしまいます。

しかしその死が次の生に繋がり、その行為が永遠に紡がれていくとしたら、

それは最も故人に礼を尽くし、かつ人間の原理に則した正常な行為なのではないでしょうか。


『生命式』とは、命から命を生む、新しい弔いのかたちです。



こんな人におすすめ

リアリティのあるSF作品が好きな人

常識を疑う作品が好きな人

短編で恐怖を感じたい人


著者紹介

著者である村田沙耶香(むらた・さやか)さんについて、

1979年千葉県出身。2003年『授乳』で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)を受賞しデビュー。2009年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、2013年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島賞、2016年『コンビニ人間』で芥川賞受賞。同作は累計発行部数100万部を突破しました。その他の小説に、『星が吸う水』『タダイマトビラ』『殺人出産』『消滅世界』『地球星人』『生命式』『丸の内魔法少女ミラクリーナ』等、多数の著書があります。

作風としては、世の中の常識を疑い、「普通」とは何か、凝り固まった価値観を揺さぶるような小説を次々と発表しています。作家仲間からは「クレイジー紗耶香」と呼ばれています。






※以下感想・考察。内容についてネタバレを含んでいます。未読の方はご注意下さい。

『生命式』の感想・考察



相変わらずの村田沙耶香、素敵な狂った小説をまた読みました。

コンビニ人間』を読んでから、ずっと彼女の作品にはまり続けています。



《正常》と《発狂》



「これだから現代の若者は」


私たちより長く生きる人が、時に言う言葉です。

私たちでさえ、より若い世代に対して何かしら思ったことがあるかもしれません。

この言葉を言う時は、それぞれの世代の若者時代と、現代の若者を比較して口にします。


しかし、この言葉を口にする人は、

どうして我が世代こそが《正常》だと信じているのでしょうか。

現代のお年寄りが若者だった時にも、その時代のお年寄りから同じことを言われていたのにもかかわらず、

どうして。


どうやら私たち人間は、自分の生きた時代の常識こそが正常》だと、信じ込んでしまう節があるようです。



正常》とは移り変わっていくもの。

当時の《発狂》と言われるものは、次の世代からしたら《正常》になります。

現在の《正常》は、100年後の人たちから見たら《発狂》と扱われるものなのかもしれない。


でもそれでいいんです。

意味もなく物事が変わることはありません。

その時代に合わせて人も物も変化していかないと、人間は成長しません。

理由があって変容していくものに、口を出す方が野暮だと思いませんか。

人間が変わる、風景が変わる、そうやって世界は成り立っています。

その行為は《正常》で、何もおかしいことはないんです。

(前略)

だって、正常は発狂の一種でしょう?この世で唯一の、許される発狂を正常と呼ぶんだって、僕は思います

(本文より)


上記は、主人公・池谷に対して男性が語った言葉です。

池谷は、作中ずっと30年前の常識と現在の常識が変わっていることに囚われていました。

しかし、彼女は山本の『生命式』を終えて、この言葉を聞いて気持ちが楽になります

世の中の《発狂》には意味があって、《正常》とは変容していくもの、

それを理解したからです。


彼女は今後その時々の《正常》《発狂》を受け入れて、生きていくのでしょう。



私もそうやって生きた方が"楽"だなと、この作品を読んで考えさせられました。





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