【書評】山田詠美『血も涙もある』の要約と考察/極上の“危険な関係”が行きつく先は

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こんにちは、lamです。今回は『血も涙もある』山田詠美・著についてご紹介します。

内容紹介

本のあらすじ

不倫？　倫理が何かは自分で決める――。35歳の和泉桃子は当代随一の料理研究家・沢口喜久江の助手を務めつつ、彼女の夫・太郎と付き合っている。「人の夫を寝盗ること」を趣味とする桃子だったが、喜久江を心から尊敬してもいる。一方の喜久江は、太郎の女癖を受け流すのが常だったが……。“lover”と“wife”と“husband”三者の視点で語られる「危険な関係」の行方は。極上の詠美文学！

（新潮社より）

「私の趣味は人の夫を寝盗ることです」

こんなことを言ったら、もう世間では非難轟轟でしょう。

巷ではよく芸能人同士の〈不倫〉が騒がれています。

そもそも〈不倫〉とは、

漢字二文字では到底納まりきらない男女の愚鈍な姿態が存在します。

血も涙もある人間の、滑稽さ、残酷さ。

其のすべてが焙り出されるものです。

本書『血も涙もある』は、そんな不倫を当事者の視点によって描いています。
本書は全十章、交互に展開される当事者たちのモノローグで語られます。

魅惑的な【料理】によって匂い立つ、男女の危険な関係

本小説で特筆して面白いのは、男女の恋愛の官能性を引き立てる隠喩として、【料理】を用いているところです。

【料理】を比喩表現として使用する場合、小説でよく見るのは、登場人物の心情表現を【料理する際の仕草】で表したり、目の前の人やものに対して、その状態を【料理のメニュー】で表したり、といったところでしょうか。

しかしこの小説の【料理】の使い方は一味違います。

【料理】の持つ匂い、見た目、その構成材料に至るまで、

各々の【料理】の特性が複雑に絡まり合い、【料理】の持つ全てをもって"不倫"という男女の不安定な関係性を表しています。

もうなんて説明したらいいのかすら分かりませんが、

とにかく【料理】によって、小説が支配されていました。

不倫という男女の関係性を、【料理】で表している作品は少なくとも私は見たことがありません。

しかしそれに対して違和感も特になく、むしろこんなにも【料理】は言葉を発するのか、そして、"不倫"の匂い立つ血なまぐささと、【料理】の持つ特性がなんとマッチするのかと感心してしまいました。

中々の新体験が味わえる作品かと思います。

こんな人におすすめ

リアリティのある作品が好きな人

大人の恋愛小説が好きな人

あまり読んだことのない体験をしたい人

著者紹介

※以下感想・考察。内容についてネタバレを含んでいます。未読の方はご注意下さい。

『血も涙もある』の感想・考察

普段読まないタイプの小説でした。

そして正直に言うと、ちょっと私には合わなかったです。

あまり恋愛もの自体を読んでこなかっせいもあるかもしれませんが、心情を包み隠さず語る感じの口語的な文章も新体験なもので、

口語的な文章は、三人の心情が良く伝わるのですが、

三人共年齢のわりに精神年齢が幼すぎるような気がしました…あくまでも主観ですが。

本作は愛の隠喩として【料理】を用いているところが特徴的です。

男女の恋愛と料理を結びつけるのは目新しく感じますが、確かに通じるものがある気もします。

特に、作中太郎によって豪快に崩されたグラタン。

グラタンに張る膜は喜久江の完璧さと併せて、まるで不安定な夫婦関係のようです。

喜久江が急にスーパーで生クリームを振るシーンも良かったです。実際にそんな人が居たら逃げてしまうかもしれません。

「私の趣味は人の夫を寝盗ることです」にはもちろん共感出来ませんが、

ここまで自分の行動に自信と理念がある人にしか、不倫は出来ないだろうなと思いました。

人の夫を奪うような人にも信念はあって、そんな人にも、血も涙もある。

最後はハッピーエンド？で良かったです。

しかしモモみたいなタイプは近くにいて欲しくないですね。

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