五十嵐律人・著
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殺人犯は、13歳。
(講談社より)
法は彼女を裁けない――。
映画化で話題の『法廷遊戯』に続く、衝撃ミステリー!
狐の面をつけた少女が、監禁した大人を次々に殺害する事件が発生した。
凶器はナイフ、トンカチ、ロープ、注射器。
常軌を逸した犯行は、ネット上で中継された。
彼女は13歳の「刑事未成年」で、法では裁かれない。
「だから、今しかないの」――。
ミステリー界の話題をさらったデビュー作『法廷遊戯』に続く衝撃作!
書評
『法廷遊戯』で話題をさらった現役弁護士 五十嵐律人氏による、二冊目の著作とのことで手に取った。
不可逆少年=可塑性の逆、やり直せない少年
これは例え話だが、
もしもあなたの大切な人が殺されて、
犯人が未成年であった為、無罪を宣告されたとしたら。
あなたはそれを赦すことが出来るだろうか。
赦せる人はとても少ないだろう。
実際、赦せるはずがない。殺人は事実なのに。
しかし、現代の我々の生きる日本の法律では、
子供という理由だけで赦される。
「子供はまだ、精神的に未熟だから」
子供は成長する、多くのことを経験すればそれだけ性格だって変わる。
一年後には、別人みたいになる。
どれだけ反省の見込みのない少年でも、環境を変えて自分を見つめなおさせれば、
「絶対にやり直せない」と言い切れる少年はいないから。
本当に、そうなのだろうか。
違う。
不可逆少年は違う。
世の中には、良い事と悪い事を理解できない子供はいる。成長しない子供だっている。
生まれながらにして脳に欠陥を持った少年たちは、実際にいる。
そんな子供でも、本当に更生できると言い切れるのか。
物語に登場するのは、痛みを知らない少女と、心を知らない少女
これは、少年が起こした1つの事件によって、人生を狂わされた少年たちの物語。
それらは家庭裁判所の調査官の目線から語られる。
不可逆少年は果たして更生できるのか、
それとも不可能なのか。
「少年法」というものに、少しでも疑問を持ったことがある方に本書はおすすめする。
※以下感想。内容についてネタバレを含んでいます。未読の方はご注意下さい。
面白かった!前作『法廷遊戯』より好きかも。
世の中「少年だから」、「精神病だから」という理由で罰せられないことを不満に思う人は多いだろう。
『法廷遊戯』の時も思ったが、この作者はそんな法律の納得できない部分を、物語に落とし込むのが上手い。前回は冤罪事件、今回は少年法。
下記に、作中でより興味深かった内容を語ろうと思う。
神経犯罪学の考え方
特に作中の神経犯罪学の考え方は面白かった。
神経犯罪学とは、「脳の構造的な特徴や神経作用の問題といった生物学的要因を重視して、非行の原因を読み解こうとする考え方」
神経犯罪学の分析方法の一例で云うと、皮膚コンダクタンスの実験-不可逆少年かどうか否かを見極める実験-が興味深かった。
実験内容は、ある決められた行為を繰り返しそれに対する反応を見る、心理学用語でいう「パブロフの犬」のような実験。これらは人間の情動反動の強弱を判断できる。
情動反応とは何か出来事が起きた時に生じる喜怒哀楽の反応のこと。
情動反応は幼いころからの蓄積された経験量で形成されるもので、適切な情動反応を示さないのは、善悪の区別がつかないのとイコールなのだという。
また神経犯罪学を用いた事例として、次のような例もある。
作中で挙げられる少年Xは、遊びで起きた怪我-扁桃体の欠損により正常な情動反応を示しにくくなり、衝動的な反社会的行動を引き起こしやすくなった。これは神経犯罪学の観点から見て、後発的な要因で情動反応が欠落し、犯罪に手を染めたといえる。
生まれついての社会的要因が原因で非行に走る事は想像ができるが、生物学的要因、後発的な要因で非行に走るー不可逆少年になることもあるのか。
その場合、適切な分野の医療が発達しなければ解決しないのではないか。
少年法の矛盾
しかし、作中によると日本ではまだ生物学的要因から犯罪性を考える理論に消極的らしい。
何故ならその考え方を認めることは、結果的に少年法が持つ「教育主義」に不都合になるから。
少年法の理念とは、「心も体も発展途上の少年には、教育的手段を用いて促すのが効果的で、社会にとっても利益になる」というもの。
社会的要因だけで非行少年になったのなら、その要因を除去すれば少年は立ち直れる。まともな環境がないのであれば、保護観察官等が教育を施せばいい。しかし生物学的要因で非行に走った少年には何を教えればいいのか。彼らに適切なのは教育ではなく治療なのだ。
教育でやり直せない少年は、少年法の理念を貫き通すには不都合になる。
だからまだ暫くは日本において、作中で云う不可逆少年が適切な治療を受けることは、無いのだろう。
『不可逆少年』の物語自体はとても面白かったのだが、強いて言うなら「不可逆少年」である神永姉妹がどう更生していくのかをもっと読んでみたかった気がする。作中ではまだ更生の見通しがある少年が中心に語られていた為。
それこそ調査員の立場では、「不可逆少年」においても、本小説で語られるように見捨てないことが一番の治療法なのかなと感じた。加えて神経犯罪学の専門家による治療。もっと医療が発達すればそちらからの解決法も…とりあえず現代の技術では確実な治療法はなさそうなのが残念(小説を読んだ限りでは)。
物語の結末ははっきりとは示されず、読者の想像に委ねられる。そのあたりは賛否が分かれるかも。しかし、希望を残すような終わり方だったのは、私は良かったのだろうと思う。不可逆少年であるかぎり更生は不可能という結論は、つらいものだから。
著者紹介
著者である五十嵐律人(いがらし・りつと)さんについて、
1990年岩手県出身。2020年『法廷遊戯』で第62回メフィスト賞を受賞しデビュー。その他の小説に『原因において自由な物語』『六法推理』『幻告』『魔女の原罪』『真夜中法律事務所』等、多数の著書がある。
作風としては、現役弁護士という立場を生かし、法律を主題とした作品を執筆する。特に現代司法の矛盾を問いただすような内容が多く見受けられる。
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