【書評】『星の子』 -どうしたら良いのか分からない

今村夏子・著


主人公・林ちひろは中学3年生。
出生直後から病弱だったちひろを救いたい一心で、
両親は「あやしい宗教」にのめり込んでいき、
その信仰は少しずつ家族を崩壊させていく。
第39回 野間文芸新人賞受賞作。

(朝日新聞出版より)

書評



もしも自らの大切な人が不治の病を患っていて、

それを治す治療法が見つかったとしたら、

あなたはどうするだろう。

多くの人は、その治療法に希望を託し、大切な人を助けようとするだろう。



どんな治療法でもいい、

たとえ一縷の希望であっても、出来ることは全て試すのだ。

それが大切な人の為になるのなら。




この物語の両親もそうだった。

虚弱児として生まれた主人公ちひろ。

両親はちひろの為に病院を駆け巡り、治療法を探す。

しかし、中々治療法は見つからず、ただ日々は過ぎていく。

そんな時、生命保険会社のサラリーマンだった父親がある同僚に悩みを漏らしたところ、「水を変えてみては」と勧められた。

家に帰って、同僚からもらったをちひろに与えたところ、ちひろはみるみるうちに健康体になっていく。

両親は同僚に感謝し、同時に水の購入先である、

とある新興宗教にのめり込んでいく。





いわゆる宗教二世の生活を描いた作品。

この物語では、すべての事柄が語られない。

あくまでも、ちひろの目線、ちひろの思いが全てである。

なので、読者の中にはもやもやした思いを抱えることになる人もいるだろう。

だが、きっとそれでいいのだ。

この本は、宗教二世が抱えている思いがとてもリアルに描かれているのだと思う。


ちひろもきっと、

どうしたら良いのか分からない


何が常識なのか、知る術がないのだから。





※以下感想。内容についてネタバレを含んでいます。未読の方はご注意下さい。






とても切なかった。

物語自体は読みやすい軽い文体で、幸せそうに暮らしているちひろの物語が綴られている。

しかしよく読むとやっぱりどこかその生活は不可解で、

それでも幸せそうに生活を送っている家族を見て切なくなった。


星を見上げる

印象に残ったのはやはり最後のシーン。

両親は両親なりにちひろを愛していたのだろう。

物語ラストの家族で星を眺める描写は、恐らく最後である家族での幸せな思い出を紡ぎたかったのだと思う。

しかし、ちひろと両親は、流れ星を同時に見ることが出来ない。

ちひろは未来に進もうとしているのだ。

だから、同じ空を見ているのに、その思いはすれ違う。

描写はされていないが、

きっとあの後ちひろは叔父さんの家で暮らし、今まで見えなかったの世界での常識を知るのだろう。

そう信じたい。

著者紹介

著者である今村夏子(いまむら・なつこ)さんについて、

1980年広島県出身。2010年『あたらしい娘』(後に『こちらあみ子』に改題)で第26回太宰治賞を受賞しデビュー。2011年に同作品を収めた単行本『こちらあみ子』で第24回三島由紀夫賞を受賞。2017年『あひる』で第5回河合隼雄物語賞、『星の子』で第39回野間文芸新人賞、2019年に『むらさきのスカートの女』で第161回芥川賞を受賞。その他の小説に『木になった亜沙』『とんこつQ&A』『父と私の桜尾通り商店街』等、多数の著書がある。

作風としては、ありふれた日常に潜む闇を平易な文章で描き出す作風で注目を集める。

『星の子』は2020年に芦田愛菜主演で映画化。



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