【書評】『法廷遊戯』 -目には目を、死には死を

五十嵐律人・著


第62回メフィスト賞受賞作!
法律家を志した三人の若者。 一人は弁護士になり、一人は被告人になり、一人は命を失った──謎だけを残して。
法曹の道を目指してロースクールに通う、 久我清義(くがきよよし)と織本美鈴(おりもとみれい)。二人の“過去”を告発する差出人不明の手紙をきっかけに、 彼らの周辺で不可解な事件が続く。清義が相談を持ち掛けたのは、異端の天才ロースクール生・結城馨(ゆうきかおる)。真相を追う三人だったが、それぞれの道は思わぬ方向に分岐して──?

(講談社より)

書評



現役の弁護士によるリーガルミステリという見出しに惹かれ手に取った。

2023年11月より全国にて実写映画も上映されている(2023年12月現在)。




むこ【無辜】

《「辜」は罪の意》罪のないこと。また、その人。



この物語には、いくつかの「冤罪事件」が登場する。



とある人物は、事件に巻き込まれ罪を背負うことになった。

しかし彼は罪を犯していない。これは冤罪だ。

彼は、不当な判決に嘆き苦しむ。

「どうして自分が」

「何としても復讐をしたい」


罪を擦り付けた本当の犯人に償わせるには、どんな罪が妥当なのだろうか


目には目を、歯には歯を


要するに、やられたらやり返せ。

この言葉が意味するのは〈同害報復

犯した罪には、相応の報復を。

視力の対価は、視力を奪うことで許してあげなさい。

正当な対価で相手を許してあげる、寛容の論理だ。

(本文より)


つまり、

誰かの命を奪った犯人には、

それが事故だろうが殺人だろうが、

最終的に被害者が亡くなったのだとしたら

一律に死をもって償わせなくてはならない。

死には死を

正当な対価で許してあげるのだ。




この物語の主要登場人物は3人。久我清義、織本美鈴、結城馨。

彼らは全員、過去に悲惨な過去があり、過去をきっかけに法曹を目指した。

しかし、とある1つの事件によって、

一部の者はその道を閉ざされることとなる。

彼らは、「罪」に対してどのような正当な報いを与えるべきか、または、受けるべきか 。






※以下感想。内容についてネタバレを含んでいます。未読の方はご注意下さい。






リーガルミステリーは、一般的に小難しい法律用語や知らなければいけない知識が多く敬遠されがちだが、本書は総じてすらすら読めた。

作者自身が法律家だからか、本来難しいであろう知識が詳細にロジカルにかみ砕いて説明されていて、法律を知らない初心者にも理解しやすい書になっていると思う。

構成も伏線が隅から隅まで張り巡らされ、物語の後半で次から次へと回収されていきミステリとしてもとても面白かった。

情景描写も優れており、さすが作者自身が法律家、特に裁判のシーンの描写がリアルで情景が浮かぶようであった。

清義の罪と罰、そして法律の矛盾


ただ一点だけ、意見を述べるとしたら、清義と美鈴の、罪の意識が全く感じられないところが妙に引っ掛かった。

幼いころの彼らの境遇には同情する。だが、それは罪を犯すことの理由にはならない。

金銭を稼ぐためといえ、どうしてそれが犯罪行為につながるのか。

まだ美鈴は本書後半で裁かれたのかもしれないが、結局はそれも失敗に終わり(冤罪立証され無罪となってしまった)、清義に至っては過去の犯罪行為が明かされることもなく、のうのうと弁護士として成功している。

法律家であるならば、彼こそ罪を償うべきではなかったのか、とも思う。

しかし、考えていくうちに、その考えは安直なものなのではとも思い直した。

司法には倫理や道徳というあいまいな基準はなく、あくまでもルールがものをいう。判決は下せても、それは裁判で議題に上がった内容がすべて。ルールを通り抜けることさえできれば悪は見過ごされる。

清義の名前の読みは「きよよし」だが、その呼びにくさからロースクールの同期からは「セイギ」と呼ばれていた。正義のヒーローは、罪を憎み悪を倒す存在だが清義の場合は、かつて悪を、罪を犯すことによって倒している。皮肉のようだが。

法治国家日本では、世の中全てのルールは法律である。つまり、その法律というルールを正しく理解し、潜り抜けた者こそが正義なのだ。現代司法は、万能なものではない。理不尽に思うかもしれないが、そういうものなのだ。

そのことを理解し、清義が法の番人である弁護士を目指したと考えれば、彼の行動は全て理にかなっていたように思う。

ともかく、本作はリーガルミステリとして、とても面白い作品であった。

この小説化著者のデビュー作というのだから驚きだ。今後も新作が発表されたら、読んでいきたい。


著者紹介

著者である五十嵐律人(いがらし・りつと)さんについて、

1990年岩手県出身。2020年『法廷遊戯』で第62回メフィスト賞を受賞しデビュー。その他の小説に『不可逆少年』『原因において自由な物語』『六法推理』『幻告』『魔女の原罪』『真夜中法律事務所』等、多数の著書がある。

作風としては、現役弁護士という立場を生かし、法律を主題とした作品を執筆する。特に現代司法の矛盾を問いただすような内容が多く見受けられる。

『法廷遊戯』は、2022年にイブニングにてコミカライズ。2023年に永瀬廉主演で映画化されている。(2023年12月現在)



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