純文学

エッセイ

【書評】林哲夫『喫茶店文学傑作選』の要約と考察/一杯の珈琲で交わる時間

本書『喫茶店文学傑作選』は、明治から平成に至るまでの作家28名による喫茶店を舞台に書かれたエッセイや小説を纏めたアンソロジーです。喫茶店という場の時代の変遷を感じられるだけでなく、喫茶店で一杯の珈琲を頂く、ひと時の時間を豊かにしてくれる美しい作品集です。喫茶店という場喫茶店とは、様々なバックグラウンドを持つ人々が集い、それぞれの時間を交錯させる非常に稀有な場所です。人々が交錯した時、そこに物語は生まれます。同じく喫茶店にて時間を過ごした作家たちは、その物語性に惹きつけられ、本書に記されたような物語を書き残しました。そんな物語を読んでいると、まるで自らもその時代にタイムスリップし、ひと時の時間を共に共有しているような感覚にさせられます。珈琲一杯分というその濃密な味わい深い時間を、共に共有してみませんか。
純文学

【書評】シャーリイ・ジャクスン『ずっとお城で暮らしてる』の要約と考察/夢が覚めても悪夢の中

悪意に満ちた作品でした。メリキャットが創り出した美しき悪夢の世界に迷い込んだかのような、あくまでも彼女の視点で語られた物語でした。夢が覚めても悪夢の中この物語は果たして現実だったのでしょうか。メリキャットの主観でしか物語が語られないので、悪意に満ちた村人や卑しいチャールズ、美しいと云われているお城でさえ、本当にそういうものであったのか疑問に思います。メリキャットは作中お城が素晴らしい場所のように語っていますが、恐らくはそうではないですよね。本当に素晴らしいと思っていたのならば一家を毒殺していないはずです。察するに、メリキャットは家族から虐待を受けていたのではないでしょうか。ただ姉だけは優しくしてくれた。だから愛する姉を除いた全員を毒殺し、好きな人しかいない幸せな世界を創り上げた。そうして生活するうちに過去の記憶も塗り替えられ、まるで素晴らしい一家だったかのようにメリキャットは思い出すようになります。本当は幸せな一家でありたかったのでしょうね。
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【書評】長野まゆみ『野ばら』の要約と考察/真夏の夜のフェアリー・テール

月彦が迷い込んだのは、現実と夢の狭間の世界。月彦は夢を見ます。その夢が覚めた時、月彦は一体どこにいるのか。いつから夢の中にいて、どこまでが夢の中なのか。何故そこにいるのか。月彦は夢のような世界の中で、銀色と黒蜜糖と出会います。知り合いのようで知らない少年たち。彼らは一体誰なのか。白い野ばらの花弁が降り注ぐ学園では、まるで水に絵の具が溶けていくようにその様相は姿を変えていきます。野ばらの垣根を越えられない猫のように月彦はその世界から出られません。何もかもが夢の中。いつまでも続く、耽美な夢の世界に浸りたい方に是非。
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【書評】谷崎潤一郎『春琴抄』の要約と考察/究極美麗なマゾヒズム

『春琴抄』はマゾヒズムを究極まで美麗に描いた文学です。以下、内容を要約しています。未読の方はご注意下さい。美しき盲目の琴曲の名手、春琴。しかしその性格は驕慢で我儘。ある日春琴に、世話係として丁稚奉公の佐助があてがわれました。佐助は、春琴からどんなに理不尽に折檻を受けても、献身的に尽くし続けます。それは不気味なほどに。やがて佐助と春琴は深い関係になり、子を儲けます。ですが気位の高い春琴は、その子を佐助との子と認めませんでした。両親は二人に結婚を勧めますが、佐助もそれを拒みました。そんなある日、春琴は何者かに熱湯を浴びせられ、顔に火傷を負います。美貌を失った春琴は、佐助に見捨てられることを恐れ、「見るな」と命じます。佐助はその言葉を受け、自らの両目を針で突き刺し、視力を失いました。そして、春琴と同じ世界を味わえることに、深く喜びました。春琴もそれを喜び、自分を理解してくれる佐助に感謝します。二人は涙を流しながら、抱き合いました。佐助は盲目となったことで、春琴の音楽がより深く理解できるようになりました。春琴は昔ほど高慢でなくなりましたたが、佐助はそれを望みません。厳しいお嬢様と、その奉公人の主従関係を拘りました。佐助の盲目の目には、いつまでも美しい春琴の姿を留めていました。
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【書評】山尾悠子『歪み真珠』の要約と考察/それは夢か現か、荘厳美麗な幻想小説

本書は15篇から成る掌編作品集です。歪み真珠『歪み真珠』とは、芸術様式の一つ「バロック」の原義とされます。広く知られるように「バロック」とは、ルネサンス後の16世紀末〜18世紀前半にヨーロッパで流行した豪壮・華麗な芸術様式であり、転じて不条理、不整形なものの意を表します。その名を冠する本作は、圧倒的な「荘厳」。洗練された優美な文体、物語の細部に至るまで緻密に描かれた装飾は見るものすべてを魅了します。物語の一遍一遍がまるで宝石の粒のようです。しかし、その粒をふと見たとき、歪なものが紛れています。物語のそれぞれに繋がりはありません。しかし、一つの大きな世界の中の出来事としては繋がっているのでしょう。まるで澄んだ静謐な空間の中に夢を見るように迷い込み、進んでも戻っても出口がないような。しかし不思議と恐怖は無い。この世界に永遠に浸りたい、美しき宝石たちを綺麗に陳列して、唯ひたすらに愛でていたい、というような快楽すら感じます。泉鏡花文学賞を受賞した著者による珠玉の掌編作品集。煌めく夢のような世界を堪能したい方に是非。
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