【書評】小川哲『君が手にするはずだった黄金について』の要約と考察/認められたくて必死だったあいつを、お前は笑えるの?

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こんにちは、lamです。今回は『君が手にするはずだった黄金について』小川哲・著についてご紹介します。

内容紹介

本のあらすじ

才能に焦がれる作家が、自身を主人公に描くのは「承認欲求のなれの果て」。

認められたくて、必死だったあいつを、お前は笑えるの? 

青山の占い師、80億円を動かすトレーダー、ロレックス・デイトナを巻く漫画家……。著者自身を彷彿とさせる「僕」が、怪しげな人物たちと遭遇する連作短篇集。彼らはどこまで嘘をついているのか? いや、噓を物語にする「僕」は、彼らと一体何が違うというのか? いま注目を集める直木賞作家が、成功と承認を渇望する人々の虚実を描く話題作!

(新潮社より)



『君が手にするはずだった黄金について』は、自らを振り返る機会を与えてくれる小説です。


物語の主人公「僕」は作家・小川哲

本作の著者と同じ名前を持つ「僕」は、作中を生きる中で様々な人々と出会い

人々の分析を通して、自身の思考や行動に自問自答します


つまり、本書は作者である小川哲自身のエッセイなのかと最初は思いますが、

どうやらそうではないらしい。

しかし、作中で起きた一部の出来事や、それに対する「僕」の思考自体は、

もしかしたら事実として経験した事なのかもしれないと、思わせもします。


読者は、この現実と創作が入り混じる物語を読んで、

自らも作中の登場人物または主人公と共鳴し、自分自身のことについても疑問を覚えるようになります。

もし自分ならどう考えるか

どんな行動をするか。

自分とは何者なのか、

存在価値や価値観までもがぐらりと揺らぐような感覚になります。


じっくりと考えさせられてしまう小説でした。


「あなたの人生を円グラフで表現してください」

プロローグで問われたこの問いが、最後まで心に残ってます。



こんな人におすすめ

自らを振り返る機会が欲しい人

承認欲求を持っている人

リアリティのある物語が好きな人


著者紹介

著者である小川哲(おがわ・さとし)さんについて、

1986年千葉県出身。2015年『ユートロニカのこちら側』で第3回ハヤカワSFコンテスト〈大賞〉を受賞しデビュー。2017年『ゲームの王国』で第31回山本周五郎賞、第38回日本SF大賞、2022年『地図と拳』で第13回山田風太郎賞、第168回直木三十五賞、2022年『君のクイズ』で第76回日本推理作家協会賞〈長編および連作短編集部門〉を受賞。その他の小説に『嘘と正典』『オルロージュ』等、多数の著書があります。

作風としては、時に学者肌的と形容されます。






※以下感想・考察。内容についてネタバレを含んでいます。未読の方はご注意下さい。

『君が手にするはずだった黄金について』の感想・考察


人間の承認欲求


本書の全編を通してのテーマは、「人間の承認欲求」です。

それが特に語られるのが、表題作である『君が手にするはずだった黄金について』


本編に登場する片桐は、承認欲求の塊として描かれています。



彼は、とにかく人から認められたくて

分かり易く人から認められる為に、トレーダーとして八十億円もの大金を運用し、

特注のレクサスに乗り、高級時計を何本も保有し、有名人の知り合いを多くつくります。

それは事実として本当にそうなら「努力して頑張ったんだな」と人から認められることですが、

片桐の場合は違いました

片桐はただ認められたいがために、他人のトレーダーとしての実績を流用し、

特注のレクサスや高級時計をレンタルし、有名人と写真を撮り、

自らを成功者として装っていただけだったのです。

片桐どうしてそんなことをしたのでしょうか。

それはまさに承認欲求の塊だから、といえばそれまでですが、

片桐の場合は、他人から認められるためだけに自らにギリギリの生活を課しています。

自分生活を差し置いてまで他人から認められたいと、思うものでしょうか。

彼の行動は、単純に考えたら、到底理解できないものかと思います。

しかし、「彼にとっては」それは当然の行動でした。

何故なら、

彼の行動原理はすべて、黄金律】に基づいて行われているものだからです



【黄金律】と【銀色律】


本編によると、

【黄金律】とは、自分がして欲しいことを他人にしましょう というもの


片桐は、この【黄金律】忠実に生きています


片桐は学生のころから、とにかく人の喜ぶ顔を見る為に、

自分がして欲しいことを他人にしてあげる人でした。

ただ自分のして欲しいことは、他人にとってはそうではないという事実を考慮していなく、

たまにおせっかいのようになってしまう人でした。

大人になってもその行動原理は変わっていなくて、

トレーダーとなった彼は、〈お金が増えて顧客の喜ぶ顔〉を見たくてひたすらに行動をしています。

彼は誰かを騙そうとしたわけではなかった。単に、配当を受け取った出資者の喜ぶ顔が見たかったのだ。問題は、正しい手段で投資をする才能がないくせに、出資者を喜ばせようとしたことにある。自分の能力とやりたいことが乖離していき、最後には修復不可能なほどの溝になったのだ。

(本文より)



片桐「本物」を目指しています。他人を喜ばせる「本物の才能を持った人間」を。


個人的には、「本物」を目指す片桐に足りなかったのは、

の信じた【黄金律】と対をなす【銀色律】も同時に考える事なのかなとも感じました。


【銀色律】とは、自分がして欲しくないことは他人にしないようにしましょう というもの


【黄金律】【銀色律】、この二つを叩きこむことが、

おそらくは道徳教育において最も重要な考え方なのではないかと筆者は説いています。


が、

自分がして欲しくないことを人にしないーー自分の為に生きる という考えを放棄してしまったことも、

片桐の失敗だったのかなと思いました。




実のところ、『君が手にするはずだった黄金について』というタイトルを見た時に期待した内容と、本書の実際の内容は少し違いました。

当時タイトルから感じたのは、何かに挫折した人の話かなと思ったのですが、

実際は理想の人物になる為に詐欺に手を出してしまった人の話でした。

これらは近いようで全く異なる気がしていて、誠実に生きているのに理想に届かなかった人の話を読んでみたかったなという思いもあります。

しかしタイトルをきっかけに物事を考えすぎてしまう人の作品を知れたのはよかったです。

違う作品も読んでみたいなと思わせる筆力を持った作家さんでした。





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