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【書評】『帝国ホテル建築物語』 -帝国ホテルを巡る熱き男たちの物語 | PLANETFORM

【書評】『帝国ホテル建築物語』 -帝国ホテルを巡る熱き男たちの物語

植松三十里・著


「かたちあるものは必ず滅す。しかし、かたちを成すために命をかけた人々の志は、本書によって神々しく蘇る」阿川佐和子氏推薦! 帝国ホテルライト館建築をめぐる熱き男たちの物語。

 世界的建築家、フランク・ロイド・ライトの飽くなきこだわり、経営陣の追及……それでも彼らは諦めなかった! そして関東大震災が――

 1923年(大正12年)に完成した帝国ホテル2代目本館、通称「ライト館」。「東洋の宝石」と称えられたこの建物を手掛けたのは、20世紀を代表する米国人建築家、フランク・ロイド・ライトだった。明治末期、世界へと開かれた日本において相応しい迎賓館が必要だと気づいた大倉喜八郎と渋沢栄一が、ニューヨークで古美術商として働いていた林愛作を帝国ホテル支配人として招聘したことから、このプロジェクトは始まった。しかし、ライト館完成までの道のりは、想像を絶する困難なものだった――。ライト館の建築に懸けた男たちの熱い闘いを描いた、著者渾身の長編小説。

(PHP文芸文庫より)

書評



愛知県の野外博物館・明治村には、多くの明治、大正時代の建物が移設、復元されて公開されている。

まるで明治時代にタイムスリップしたかのような感覚を味わいながら、四季折々の自然とどこかからか聞こえてくる汽笛の音を楽しみながら園路を進むと、最初に、石造りの重厚な建物と出会える。

それは帝国ホテル

温かい風合いの黄色いレンガの外壁と、大地にどっしりと構えるその姿、大谷石やテラコッタに彫刻された繊細な幾何学模様はかつて日本を代表したホテルとしての威厳を保つ。

現代の姿は中央玄関とロビー部分だけだが、それだけでも伝わる、このホテルには熱い歴史がある。

帝国ホテルの初代支配人である林愛作、設計に関わったアメリカの巨匠フランク・ロイド・ライトと、その弟子であり将来著名な建築家となる遠藤新

帝国ホテルの建設に深く関わった男たちの物語が、本書では語られる。





日本人の目には西洋的に映り、西洋人の目には日本的に感じられる、

世界のどこにもない魅力的なホテルを目指してつくられた帝国ホテル。

支配人・林愛作は、そんなコンセプトを実現できる建築家として、フランク・ロイド・ライトを推した。

その推薦の理由を語るには、まずはライトの建築の特徴を知ることが必要だろう。


フランク・ロイド・ライトの建築の特徴

フランク・ロイド・ライトの建築の特徴の一つは、プレーリー・スタイル(草原様式)と呼ばれる。

プレーリー・スタイルとは、水平を強調した建築デザインのことで、

具体的には屋根を低く抑え、水平のラインを意識することで水平線、地平線を眺めた時のような伸びやかな視覚的な印象を持たせるものだ。

そうすることで、建物自体が大地にどっしりと根を下ろしたかのような安心感・安定感を与える。

またライトは、自然界に存在する色彩や素材を生かした仕上げにこだわることで、より自然に馴染む建築をつくりあげた。

アメリカは広々とした草原地帯が多く見られる為、そんな雄大な自然を邪魔しない建築スタイルがとても合っていた。

ただ当時のアメリカではその思想はとても新しいものだった。
何故なら、その頃のアメリカの建築の全盛は欧州から伝わる新古典主義であり、その様式とはまるで正反対のものだったからだ。

ライトのプレーリー・スタイルは画期的な建築スタイルとして、当時のアメリカ人に驚きを持って迎えられた。

しかし、その建築スタイルは、恐らく日本人にとっては目新しい特徴とは言えないだろう。

というのも、フランク・ロイド・ライトの建築は日本の建築に大きな影響を受けている。

古くからの日本の建築は、土地に合わせて自然に馴染むように設計される。

ライトの設計思想は「建築は人間の有機的な生活を反映したものであり、建築物は外部の自然と調和をはかるべき」というものだが、その思想はそのまま従来の日本建築にも当てはまる。

つまりライトの建築は、日本人が見るとどこか懐かしさを感じる、日本的な感性を持つ建築とも言えるのだ。




当時帝国ホテルをつくる計画が立ち上がった時、ホテルの宿泊者は主に西洋人を想定された。

西洋人が居心地よく宿泊出来て、癒されるためには、本格的な西洋式のホテルでなければならない。しかし、西洋にあるようなホテルをそのまま設計したところで、わざわざ日本に作る意義が感じられないし、ホテルにはある程度の非日常性も大切だ。

和風な要素を部分的に取り入れれば多少の非日常性は体験できるかもしれないが、とってつけたような要素は日本の美学に反する。日本人が誇れるホテルにはならない。

誰なら西洋人が居心地よく、日本的な感性も取り入れたホテルが設計できるか。

そんなホテルをつくれるのは、フランク・ロイド・ライト以外に考えられなかった。





本書は、帝国ホテルの計画立ち上げから竣工までの物語だが、

主に語られるのは、大谷石や外装に使われている黄色いレンガの材料の選定風景や、特徴的な柱の彫刻の拘り、関東大震災を耐えた免振構造等、目に見えて分かり易いライトの設計の魅力だ。

正直に言うと、帝国ホテルやライトの本当の魅力を知るには足りていない要素が沢山ある。

床の高さ、天井の高さを少しずつ調整することで一変する空間体験や、壁の仕切りを多用せず家具で空間を仕切ることによる部屋の連続性、何故ライトはそのような設計をするのか、彼の思想を直接的に反映した、浮世絵にインスパイアされたドローイング等、まだまだ帝国ホテルやフランク・ロイド・ライトには驚きがある。

だが、全く何も知らない人に向けた帝国ホテルの魅力を伝える書としては十分で、入りとしては良いのではないか。

今後建築を学びたいと思っている人や、建築にあまり詳しくないけど、興味がある人など、建築予備知識のない人が特に楽しめると感じた。

本書を読んでライトや近代建築に興味を持ったら、是非深く語られた専門書を読んでみて欲しい。本書はフランク・ロイド・ライトの魅力を知る為の橋掛かりとなればいいなと思う。



著者紹介

著者である植松三十里(うえまつ・みどり)さんについて、

1954年静岡県出身。婦人画報社編集局、建築都市デザイン事務所勤務等を経て、フリーランスのライターに。2003年『桑港にて』で第27回歴史文学賞、2005年『三人の妾』で小学館文庫小説賞優秀作品入選、2009年『群青 日本海軍の礎を気付いた男』で第28回新田次郎文学賞、同年『彫残二人』で第15回中山義秀文学賞を受賞。その他の小説に、『まれびと奇談』『猫と漱石と悪妻』『イザベラ・バードと侍ボーイ』等、多数の著書がある。

作風としては、歴史小説を主に書き、特に歴史に埋もれた人物の人柄を読み解き小説に書く。



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