【感想】芦沢央『汚れた手をそこで拭かない』の要約と書評/悪いことをしたから悪いことが起きるとは限らないんだよ


もうやめて……ミステリはここまで進化した!

第164回直木賞候補作。

ひたひたと忍び寄る恐怖
ぬるりと変容する日常

話題沸騰の「最恐」ミステリ、待望の文庫化。

閉鎖空間に監禁された
デスゲームの参加者のような切迫感。
                ──彩瀬まる

平穏に夏休みを終えたい小学校教諭、元不倫相手を見返したい料理研究家……
きっかけはほんの些細な秘密だった。

保身や油断、猜疑心や傲慢。
内部から毒に蝕まれ、
気がつけば取返しのつかない場所に立ち尽くしている自分に気づく。

凶器のように研ぎ澄まされた“取扱い注意”の傑作短編集。

(文藝春秋より)

書評

あの時の決断が、取り返しのつかない事態に陥る。


その決断自体はちょっとしたもの。

あの時それを渡さなければ、

あの時最後に確認をしたら、

あの時早めに報告しておけば、

あの時見栄を張ったりしなければ、

こんなことにはならなかったのに。



心理的な転落を上手く表現した短編集。

日常に潜むイヤミスが好きな人におすすめする。


作中起こる決断と結末は、現実に誰にでも起こり得ることだろう。

もし自分が同じ立場に置かれたら、正しい決断が出来るのだろうか。





※以下考察・感想。内容についてネタバレを含んでいます。未読の方はご注意下さい。






本の帯の言葉、「もうやめて」。

まさにそう叫びたくなってしまうような、精神的に突き落とされるような短編集だった。

主人公たちの焦燥感、緊迫感が、まるで自分も体験しているかのように直に伝わってくる良い作品だ。


汚れた手をそこで拭かない

タイトルとなっている『汚れた手をそこで拭かない』。

この言葉は作中を通しての1つのテーマとなっている。

日常生活の中で求められた1つの決断、

その決断自体は罪を問われるようなことでも、人として非難されるようなものでもない。

決断を迫られた当初はなんてことのないただの選択だったはずなのに、

もしそれが間違った決断であったことが分かったとき、

犯してしまったミスはどこで償えばいいのか。

作中の主人公たちは、その償い方を間違える。

『汚れた手をそこで拭かない』

取り繕う為に、とっさに適当なところで拭いてしまったから、

最終的にその汚れは広がり、

取り返しのつかない事態に発展してしまうのだ。





どの作品も違う良さがあったが、一番好きなのは『埋め合わせ』かな。

手を汚してしまった主人公、秀則の焦りがとてもリアルで呼吸がしづらくなるのに加えて、五木田というモンスターの登場によって起こる展開は予想出来なかった。驚き。

もしやらかしてしまったら、即座に報告して誠実に謝ることが大事だなと、

社会人として身に染みて感じました...。



著者紹介

著者である芦沢央(あしざわ・よう)さんについて、

1984年東京都出身。2012年『罪の余白』で第3回野性時代フロンティア文学賞を受賞しデビュー。2018年『火のないところに煙は』で第7回静岡書店大賞を受賞。2020年『汚れた手をそこで拭かない』で第164回直木賞候補、第42回吉川英治文学新人賞候補。その他の小説に、『許されようとは思いません』『悪いものが、来ませんように』『今だけのあの子』『いつかの人質』『貘の耳たぶ』『僕の神さま』等、多数の著書がある。

作風としては、リアルな心理描写に定評があり、後味の悪いイヤミスの書き手としても注目されている。短編や連作形式のミステリを得意とする。



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