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純文学

【書評】山尾悠子『歪み真珠』の要約と考察/それは夢か現か、荘厳美麗な幻想小説

このような美しい文章を紡ぐことが出来る才に感服する。 本書は15篇から成る掌編作品集。 歪み真珠 『歪み真珠』とは、芸術様式の一つ「バロック」の原義とされる。 広く知られるように「バロック」とは、ルネサンス後の16世紀末〜18世紀前半にヨーロッパで流行した豪壮・華麗な芸術様式であり、転じて不条理、不整形なものの意。 その名を冠する本作は圧倒的な「荘厳」。 洗練された優美な文体、物語の細部に至るまで緻密に描かれた装飾は見るものすべてを魅了する。 物語の一遍一遍がまるで宝石の粒のようだ。
芸術

【書評】飯島都陽子『魔女のシークレット・ガーデン』の要約と考察/自然が彼女たちを魔女にした

魔女、と聞いて、どんな姿を想像するだろう。 鉤鼻で黒い長衣をまとい、何やら怪しげな鍋をかき回し恐ろしい魔術を用いる、邪悪な女性だろうか。 魔女の歴史を辿ると、それは誤解だということが分かる。 かつての魔女とは、薬草に長けた現在でいう薬剤師のような、民間療法士だったそうだ。 人々の病を治すために、今までの経験から知恵を生かし植物を用い薬を調合する、 植物の四季の動きをはかるために、天を眺める 大切な人を守るために、賢い女たちは自然を尊び、森の樹木や草花、生き物たち、過酷な天候を観察し、彼女たちは魔女になっていった。 それは、 自然が彼女たちを魔女にした といっても過言ではない。
ミステリ

【書評】東野圭吾『ある閉ざされた雪の山荘で』の要約と考察/全員役者、全員容疑者

物語は一通の手紙から始まる。 ある「閉ざされた」雪の山荘に集められた役者たち。 山荘は記録的な大雪のせいで、外に出ることも叶わない。また、雪の重みで電話線が切れ、連絡手段も交通手段もない。 役者たちは隔離された山荘に閉じ込められてしまった。 雪は依然として降り続け、救助は来ない。 そんな中、最初の殺人が行われてーー
ミステリ

【書評】五十嵐律人『法廷遊戯』の要約と考察/目には目を、死には死を

むこ【無辜】 《「辜」は罪の意》罪のないこと。また、その人。 この物語には、いくつかの「冤罪事件」が登場する。 とある人物は、事件に巻き込まれ罪を背負うことになった。 しかし彼は罪を犯していない。これは冤罪だ。 彼は、不当な判決に嘆き苦しむ。 「どうして自分が」 「何としても復讐をしたい」 罪を擦り付けた本当の犯人に償わせるには、どんな罪が妥当なのだろうか 目には目を、歯には歯を 要するに、やられたらやり返せ。 この言葉が意味するのは〈同害報復〉 犯した罪には、相応の報復を。
ミステリ

【書評】木爾チレン『みんな蛍を殺したかった』の要約と考察/みんな誰かを殺したいほど羨ましい。

スクールカースト最底辺のオタク女子三人と、誰もが羨む容姿を持つ美少女転校生の話 物語は登場人物たちそれぞれの目線で進んでいき、丁寧に心情が描かれている。 女子高生独特の無敵感、自分勝手に物事を捉える感じが見事だ。 ーーあなたは、誰かを殺したいほど羨んだことがあるだろうか。 登場人物のオタク女子3人は、 自らの底辺な環境に絶望し、二次元の中の現実とは異なる世界に没頭するしかなかった そうすることで自分を守っていられたのに しかし、ある時現れた 自分とは全く違う、欲しいものをすべて持っている理想の人物が あなたはその人を羨まずにはいられるだろうか
日常

【書評】宇佐見りん『推し、燃ゆ』の要約と考察/あなたにとっての「背骨」は何ですか?

私には”推し”というものがいない。 本書を手に取ったのは、”推し”がいる人々の気持ちを追体験したいと思ったからだ。 この本を読むことで恐らくそれは達成できた。 主人公は学校にも家庭にもバイト先にも居場所がないと感じている女子高生あかり。 そんな彼女の生きがいはアイドルである“推し”を“推す”こと。 “推す”ことが彼女の人生の唯一の生きがいであり存在する意味だった。 推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。 (本文より) 本書は、この衝撃的な一文から始まる。 推しが推せなくなる。 あかりは絶望した。 推しが燃えたことで、ただでさえままならないあかりの人生は更に転落を始める。
日常

【書評】伊坂幸太郎『逆ソクラテス』の要約と考察/敵は、先入観。世界をひっくり返せ!

小学生が主役の、子供たちが体験する世界を描いた作品。 小学生ならではの純粋な疑問や、ユーモアあふれた機敏が際立つ。 先入観を覆す 本書は5篇から成る短編集。 著者は本作のことを、「デビューしてから二十年、この仕事を続けてきた一つの成果」と語る。 複数の短編で同姓同名の人物が登場することがあるが、それぞれの話は繋がっているような、繋がっていないような、詳細には語られない。 逆ソクラテスは全編にわたり、「先入観を覆す」ことをテーマに置いている。 子供のころ、大人たちが言っていることは全て正しいと思わされていた。 果たして本当にそうなのか、大人になった
ミステリ

【書評】井上真偽『ぎんなみ商店街の事件簿 BROTHER編』の要約と考察/これからあなたが目にするのは、ある事件のひとつの側面にしかすぎません

「同じ事件と手掛かりなのに、全く別の推理とストーリーが展開する独特の構造を持ったミステリ」という前評判を聞きつけて購入した。 人の数だけ真実がある 物語は、かつて寺の門前町として栄えた通りに位置するぎんなみ商店街を舞台に語られる Brother編の主人公は、ぎんなみ商店街を見下ろす坂の上のマンションに住む4兄弟。長男元太、次男福太、三男学太、四男良太。 彼らの名前の由来はとある絵本にあり、登場人物のキャラクターの名前になぞらえている。また、兄弟それぞれの性格もそれに由来する。
ミステリ

【書評】井上真偽『ぎんなみ商店街の事件簿 SISTER編』の要約と考察/これからあなたが目にするのは、ある事件のひとつの側面にしかすぎません

「同じ事件と手掛かりなのに、全く別の推理とストーリーが展開する独特の構造を持ったミステリ」という前評判を聞きつけて購入した。 人の数だけ真実がある 物語は、かつて寺の門前町として栄えた通りに位置するぎんなみ商店街を舞台に語られる。 Sister編の主人公は、ぎんなみ商店街に店を構える焼き鳥屋「串真佐」を実家に持つ3姉妹。長女佐々美(ささみ)、次女都久音(つくね)、三女桃(もも)。 名前から察せられるように、姉妹の名前は焼き鳥に由来がある。  姉妹は商店街の一員として、街で度々起こる事件を解決していく。 解決する事件は殺人事件等のような重たいものではなくちょっとしたものだ。 ただ、真相は衰退していく商店街ならで
ミステリ

【書評】米澤穂信『満願』の要約と考察/人間の心の闇を覗き見る

表題作である『満願』をはじめ6編から成る短編集。 短編集なのだが、それぞれの物語がまるで一冊の本を読んだかのように重厚だ。 本作は一貫して人間の心の闇の部分を描いている。 ある人は自らの信念を貫き通すために、 またある人は秘密を守り切るために、 もしくは心が弱すぎるがために、 一線を越えてしまう。
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