書評

SF

【書評】萩原規子『西の善き魔女⑥闇の左手』の要約と考察/世界の果ての壁、そして竜の星

遂に本編完結。 女王候補の決着は意外なものではあったものの、納得。 3人共々異なる魅力を持った女性で、しかし望む未来の根源は同じ。 過去・現代・未来それぞれを担う『西の善き魔女』として国を存続させるのだろう。 私自身3人共大好きなキャラクターだったので良かった。 『西の善き魔女』シリーズは、巻ごとに全く様相が異なる世界観を持つことが魅力の一つだが、まさか第六巻ではSFになるとは…。 これだけ世界観が変わっても一つの物語として読めるのがすごい。 壮大な物語だったので、本編完結の寂しさ半分、何となくまだ消化不良感は残るが(博士の行方等)、それはまた外伝で語られるのだろうか。まだ語られる物語があることを嬉しく思う。フィリエルとルーンが幸せでいて欲しい。 外伝へ!
SF

【書評】萩原規子『西の善き魔女⑤銀の鳥 プラチナの鳥』の要約と考察/敬虔な乙女たちのアラビアン・ナイト

極彩色に彩られた衣服、鼻に香るスパイスの香り、異国情緒溢れる街並み。 次期女王候補アデイルと、トーラス女学院文芸部長兼傍系王族であるヴィンセントは、東の帝国ブリギオンの侵略の狙いを探る為隣国トルバートに居た。 そこで出会うのは女王制反対論者や国家転覆を狙う者。 アデイルたちは国家同士の諍いに巻き込まれていく――。 本作は外伝で、主人公フィリエルもルーンも登場しないが、この第五巻、個人的に一番面白かったかもしれない。 アデイル主役のしっかりとした冒険ファンタジー。 命狙われる危機の中、しかし恋愛要素も欠かせない。アデイルはルーンに似たティガという傭兵の少年と出会い中を深めていく。アデイルの立場上結ばれる未来は来ないと思うが、アデイルとユーシスの既定路線よりお似合いだった。 傭兵団を味方につけてからのアデイルは王宮内でお人形さんしている時よりよほど生き生きとしていて、もう女王争いを投げ打ってでもエゼレット(傭兵団)に加入して欲しいくらい。しかしそこで使命を忘れない真っ直ぐなアデイルがまた魅力的なんだな…。
SF

【書評】萩原規子『西の善き魔女④世界のかなたの森』の要約と考察/はるか南の地へ、そこは竜の住む森

闇に消えたルーンを追い、フィリエルは竜騎士団と共に竜の住む南の地へ。 第一巻のセラフィールドでの舞踏会から、女学校編、王宮編から竜退治編と、壮大な物語になってきた。 それでもフィリエルの想いは変わらない。 闇に堕ちていくルーンを守るために彼女は行動する。 そして第四巻から、散りばめられた伏線が回収されつつある。しかし新たな謎も。竜とはなにか、女王試金石の秘密、世界の果てには何があるのか。それを知るフィーリ(賢者)とバード(吟遊詩人)とは。また、本作の闇の組織、蛇の杖(ヘルメス・トリスメギストス)の正体とは――。 本編はあと1巻で完結するそうだが(残り3巻は外伝)、はたして回収出来るのだろうか…。このまま突き進みたい。 そして、遂にフィリエルとルーンは想いを通わせる。特にルーンの言葉、 「きみはぼくが、研究第一だと思うかもしれないけれど、きみのいない世界というのは、謎を解くだけの価値もないんだよ」 はフィリエルと共に私の胸にも刻み込んだ。素敵すぎる。 物語を通してずっとルーンが愛おしい。
SF

【書評】萩原規子『西の善き魔女③薔薇の名前』の要約と考察/光輝く宮殿、ハイラグリオンへ

フィリエルは自分の居場所を求め、王宮(ハイラグリオン)へ向かう。 第二巻の女学校編から一転、ついに女王候補たちの戦いが始まる。 また、一巻からずっと仄めかされてきた竜の存在、光の宮殿と対照的に隠された闇の世界が顔を覗かせる。 フィリエルとルーンは、どちらも相手を守るために自らの信じる道を進もうとする。 それが時にはすれ違い、諍いになっても、それでもお互いを大切に想い行動する。 第三巻ではそれが決定打になり別れを選択してしまうのがとても切ない。 第三巻はレアンドラの存在も鍵だ。 第一巻ではアデイルと同じ女王候
SF

【書評】萩原規子『西の善き魔女②秘密の花園』の要約と考察/送り込まれたのは、乙女たちの陰謀渦巻く秘密の園

舞台は「秘密の花園」トーラス女学院へ。 トーラス女学院は、表向きは全寮制の厳粛で清らかな女子修道院附属学校。 しかしその内情は、一部の特権階級の乙女たちが支配する陰謀渦巻く過酷な環境であった。 そんな場所に貴族の行儀作法のお勉強よろしく放り込まれたフィリエルは、女学院を牛耳る生徒会に目を付けられ、悪質な嫌がらせを受ける。 生徒会に対抗すべくフィリエルは、女学校の伝統である決闘で勝負を挑むことにしたが――。 一巻の雰囲気からがらりと変わり、女学校編へ。 『西の善き魔女』は、巻ごとに全く異なる世界観を楽しめるのも魅力の一つだ。 二巻では、今後も活躍する人物たちが沢山初登場するが、 特別見どころの一つは、フィリエルとルーンの関係の進展だろうか。 一巻ではただの幼馴染でしか過ぎなかった彼らが、二巻では仄かな恋愛感情を覚え行動を起こし始める。 また二巻ではルーンの女装姿も拝めるのだが、フィリエルがあまりにも勇敢過ぎて、この物語のヒロインはルーンなのではないかと錯覚してしまう。 ルーンも男らしさを出そうと頑張ってはいるのだが、フィリエルがかっこよすぎる。 この二人の恋愛関係は、お互いがお互いを守ろうと奮闘しているのも良い。
SF

【書評】萩原規子『西の善き魔女①セラフィールドの少女』の要約と考察/夜空に輝く星、最果ての塔の天文台で

この物語は王道ファンタジーだ。 夜空に煌めく星や月を背景に、少女フィリエルの冒険譚が描かれる。 初めての舞踏会、まるでシンデレラかのような水色のガウンを着て、憧れの王子様とのダンスを楽しむ、転じて巻き込まれる女王の後継者争い、そして明かされる、平凡な田舎の少女が王家の血を引いているという心躍る設定。辺境の塔で行われる禁忌の研究。 物語に紡がれる全てが乙女心くすぐる。 ※以下感想。内容についてネタバレを含んでいます。未読の方はご注意下さい。 初めてこの物語を読んだのは中学か高校の時だったが、改めて読み返したくなった為再購入。 そして、今再読しても思う。この物語においてルーンという存在は素晴らしい。 当時多くの少女をときめかせたのではないだろうか。かく言う私もその一人。
芸術

【書評】中野京子『異形のものたち』の要約と考察/絵画のなかの「怪」を読む

本書『異形のものたち』では、尋常ならざる形態に魅入られた画家たちによる欲求を 美麗な絵画の解説とともに紹介される。 この世にないものに対する「見たい」という好奇心 曰く言い難い気配や雰囲気の絵画的創出 本書は、そんな「怪」を、人獣、蛇、悪魔と天使、キメラ、ただならぬ気配、妖精・魔女、魑魅魍魎のキーワードをもとに語る。 しかし、「異形」を画題にした絵画と聞くとどこか物珍しく感じるが、 古来から伝わる神話や宗教では、当然のように「異形」は登場する。 そう考えると、「異形」とはそもそも物珍しいものなどではなく、人間心理の根底では情念の対象なのだろう。
芸術

【書評】中野京子『印象派で「近代」を読む』の要約と考察/光のモネから、ゴッホの闇へ

印象派とは、どんな”イメージ”を持っているだろうか。 やわらかい色彩、まるで光を映したのかというように明るく、自在で魅力的なタッチ。 多くの共通認識はこうだろう。 しかし本書を読むと、その認識は少なからず覆される。 印象派の時代 印象派を語るうえで外せないもの、それは時代だ。 印象派は現代ではごく当たり前に受け入れられ、世界中で愛好されているが、 19世紀後半のパリではそうではなかった。
ミステリ

【書評】原田マハ『楽園のカンヴァス』の要約と考察/絵を見る、ということ

あなたは、画家アンリ・ルソーを知っているだろうか。 西洋美術をあまり知らない場合、その名にピンと来ないかもしれない。 それでは、パブロ・ピカソはどうだろう。 「20世紀最大の画家」パブロ・ピカソ。 前衛的で不可解な絵を描くことで有名な彼だが、 実は、ピカソのあの特徴的な画風の成立の陰には、アンリ・ルソーの絵画との出会いがあったという説がある。 大画家ピカソに影響をもたらしたともいえる、ルソーの絵。 本書『楽園のカンヴァス』は、そんなアンリ・ルソーの絵画をめぐる物語である。 スイス,バーゼルの大富豪、コンラート・バイラ―邸において、 アンリ・ルソーによる名画「夢」に酷似した絵画の真贋を調査する依頼から物語は始まる。 真贋判定を任されるのは、2人のルソー研究者。 パリ大学の天才女性学者であるオリエ・ハヤカワ。
日常

【書評】今村夏子『星の子』の要約と考察/どうしたら良いのか分からない

もしも自らの大切な人が不治の病を患っていて、 それを治す治療法が見つかったとしたら、 あなたはどうするだろう。 多くの人は、その治療法に希望を託し、大切な人を助けようとするだろう。 どんな治療法でもいい、 たとえ一縷の希望であっても、出来ることは全て試すのだ。 それが大切な人の為になるのなら。
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