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【書評】村田沙耶香『生命式』の要約と考察/正常は発狂の一種でしょう?

本作は、現在の常識から少し外れた人々が登場する短編集です。本ページではその中から、表題作である『生命式』について書評しようと思います。あなたは、現在のお葬式のかたちに疑問を覚えたことはありますか?お葬式とは、故人の死を悼み、ご冥福を祈り、別れを惜しむための儀式です。故人の親族やかつてお世話になった人たちが集まり、厳かに故人の生前を思い出す為の場でもあります。私たちは、その行為に特に何も思うことは無く、伝統として繰り返します。それが故人の為を想い、【最も礼を示したかたち】であるから。しかし、もし30年後、故人を食べることが一般的な世の中になっていたとしたら、あなたはその常識についていけますか?「いやいやそんな非常識な、失礼にも程がある」そう思う人は、今一度よく考えてみてください。故人に生前とてもお世話になったのに、ただ火葬してお墓に埋めてしまうことは、果たして故人に対し、【最も礼を示したかたち】なのでしょうか?大切なことを言い忘れていました。『生命式』とは、故人を食べながら、男女が受精相手を探し、相手を見つけたら二人で式から退場してどこかで受精を行う儀式です。この儀式が表すのは、肉を食べながら故人を弔い、その死から生を生みだすということ。人間はいつか死んでしまいます。しかしその死が次の生に繋がり、その行為が永遠に紡がれていくとしたら、それは最も故人に礼を尽くし、かつ人間の原理に則した正常な行為なのではないでしょうか。『生命式』とは、命から命を生む、新しい弔いのかたちです。
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【書評】村田沙耶香『殺人出産』の要約と考察/洗脳された常識で私たちは生きている

本書は現代社会の倫理観の歪みをテーマにしたSFです。表題作『殺人出産』の他、『トリプル』『清潔な結婚』『余命』の4篇で構成されています。今回の書評では、表題作『殺人出産』について述べていこうと思います。「この人がいなくなれば、私の世界は良くなるのに」そんなことを、思ったことはあるでしょうか。この世界では、そんな願望を叶えることが出来ます。殺人出産システム10人産めば、1人殺せる。年々人口が減少する日本では、そんな法律が施行されました。それが子供を産めない男性でも問題ありません。人工子宮を付ければ可能です。これは、100年後の日本の未来。この未来に嫌悪感を持つものは多いでしょう。しかし本書を読んだ後には、その常識はきっと翻ります。“人間の誰しもが持つ殺人衝動”を肯定したこの世の中において、正常とは何か。
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【感想】萩原規子『西の善き魔女』全シリーズの要約と書評 -母の形見の首飾りが少女を導く。王宮へ、そして世界のかなたへ

美しくも厳しいセラフィールドの地、あかがね色の乙女と黒髪の眼鏡の少年は、居場所を追われ旅に出ます。片や亡き母の首飾りを頼りに片や異端の研究の末にそれは煌めく王宮へ、竜の住む森へ、世界の果てまで――この物語の主人公、フィリエルはいつでも真っ直ぐで、強い意志を持っています。フィリエルの騎士ルーンは、いつまでもただ一人の女性を想っています。物語を通して二人は互いにその身を案じ、相手を守ろうとし続けます。そんな2人の想いは物語を創り、世界をも救います。中公文庫版と角川文庫版について加えて、『西の善き魔女』には色んな版が存在するのでそれについても少し。大きく中公文庫と角川文庫の版がありますが、違いとしては、装丁が異なるだけでなく、刊行順も異なります。個人的には中公文庫版が好きです。ファンタジー児童書装丁画の大御所である佐竹美保さんによる美しい装丁画、刊行順も時系列となっており、読みやすいかと思います。角川文庫版は本編が1-5巻、外伝が6-8巻という構成です。そして『西の善き魔女』にはコミカライズ版もあるのですが、そちらも素敵です。桃川春日子さんの絵がとても合っていて、より世界観を想像しやすく、『西の善き魔女』を見せてくれます。
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【書評】萩原規子『西の善き魔女⑧真昼の星迷走』の要約と考察/共に居る未来のために、旅路の果てに

第六巻で完結している『西の善き魔女』ですが、本作第八巻「真昼の星迷走」にて遂に最終巻。数々の伏線、第六巻のその後、フィーリ(賢者)とバード(詩人)の謎と、本作にて物語は完結しました。まさかルーンが亡国の王子とは。(多分)フィリエルとルーンの今後、この世界の未来は読者の想像に委ねられますが、きっと強い意志で善き未来を創り上げていくのでしょう。もっと『西の善き魔女』の世界に浸っていたい気持ちはあれど、最後まで読めて良かったです。それにしても本書はルーンを中心に回っているのかというくらい、ルーンというキャラクターの魅力が凄いと思いました。どのキャラクターも魅力的で素敵なのですが、やはりルーンの人柄が特に印象に残ります。ルーンという人物を生み出してくれただけでも、著者萩原規子さんに多大なる感謝です。ありがとうございます!『西の善き魔女』を初めて読んだのは中学か高校あたり。当時ドキドキしながら読んだことを思い出しつつ、大人になって知識が増えたうえで読み返すと、また思うところがあります。考察については総評にて!
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【書評】萩原規子『西の善き魔女⑦金の糸紡げば』の要約と考察/美しくも厳しいセラフィールドの四季の調べ

美しくも厳しいセラフィールドの自然を舞台に、フィリエルとルーンの出会いが春夏秋冬を通して紡がれます。広大で閉ざされた世界での5人だけの生活。幼いフィリエルの戸惑いや葛藤、闇の中にいたルーンが自らを取り戻していく様子を、セラフィールドという大地が包み込んでいます。最後には断章として18歳になったフィリエルとルーンによる里帰りが語られます。第一巻で脱出したままの状態で残されたセラフィールドで、彼女たちは過去を追想し前へ進みます。エディリーンの墓参りの様子は2人だけの世界。読者の想像に任されます。ルーンが眼鏡を大切にしていた理由や、出番の少なかった博士やホーリー夫妻が描かれていて良かったです。冒険の旅が終わり、優しく温かい雰囲気の巻でしたね。ルーンのフィリエルへの想いが確固たるものと感じられるのも良いです。そして、遂に次巻は『西の善き魔女』最終巻。外伝3。シリーズが終わってしまうのは悲しいですが、少年少女の冒険を最後まで見届けたいです!
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【書評】萩原規子『西の善き魔女⑥闇の左手』の要約と考察/世界の果ての壁、そして竜の星

遂に本編完結しました!女王候補の決着は意外なものではあったものの、納得の結末でした。3人共々異なる魅力を持った女性で、しかし望む未来の根源は同じ。過去・現代・未来それぞれを担う『西の善き魔女』として国を存続させるのでしょう。私自身3人共大好きなキャラクターだったので良かったです。『西の善き魔女』シリーズは、巻ごとに全く様相が異なる世界観を持つことが魅力の一つですが、まさか第六巻ではSFになるとは…でした。これだけ世界観が変わっても一つの物語として読めるのがすごいです。壮大な物語だったので、本編完結の寂しさ半分、何となくまだ消化不良感は残りますが(博士の行方等)、それはまた外伝で語られるのでしょうか。まだ語られる物語があることを嬉しく思います。フィリエルとルーンが幸せでいて欲しいですね。外伝へ!
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【書評】萩原規子『西の善き魔女⑤銀の鳥 プラチナの鳥』の要約と考察/敬虔な乙女たちのアラビアン・ナイト

極彩色に彩られた衣服、鼻に香るスパイスの香り、異国情緒溢れる街並み。次期女王候補アデイルと、トーラス女学院文芸部長兼傍系王族であるヴィンセントは、東の帝国ブリギオンの侵略の狙いを探る為隣国トルバートに居ました。そこで出会うのは女王制反対論者や国家転覆を狙う者。アデイルたちは国家同士の諍いに巻き込まれていく――。本作は外伝で、主人公フィリエルもルーンも登場しませんが、この第五巻、個人的に一番面白かったかもしれないです。アデイル主役の冒険ファンタジー。命狙われる危機の中、恋愛要素も欠かせない。アデイルはルーンに似たティガという傭兵の少年と出会い、仲を深めていきます。アデイルの立場上残念ながら結ばれる未来は来ないと思いますが、アデイルとユーシスの既定路線よりお似合いです!傭兵団を味方につけてからのアデイルは、王宮内でお人形さんしている時よりよほど生き生きとしていて、もう女王争いを投げ打ってでもエゼレット(傭兵団)に加入して欲しいくらい。しかしそこで使命を忘れない真っ直ぐなアデイルがまた魅力的なんです…。アデイルはずっと魅力的なキャラクターでしたが、今回の物語でより輝きを増しました。ヴィンセントの再登場も嬉しいです。守られる可憐なお姫様と、賢く凛々しいお姫様。二人の見えない本音が、確固たる意志に変わる過程も良かったです。
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【書評】萩原規子『西の善き魔女④世界のかなたの森』の要約と考察/はるか南の地へ、そこは竜の住む森

闇に消えたルーンを追い、フィリエルは竜騎士団と共に竜の住む南の地へ。第一巻のセラフィールドでの舞踏会から、女学校編、王宮編から竜退治編と、壮大な物語になってきました。それでもフィリエルの想いは変わりません。闇に堕ちていくルーンを守るために彼女は行動します。そして第四巻から、散りばめられた伏線が回収されつつあります。しかし新たな謎も。竜とはなにか、女王試金石の秘密、世界の果てには何があるのか。それを知るフィーリ(賢者)とバード(吟遊詩人)とは。また、本作の闇の組織、蛇の杖(ヘルメス・トリスメギストス)の正体とは――。本編はあと1巻で完結するそうですが(残り3巻は外伝)、はたして回収出来るのでしょうか…。そして、遂にフィリエルとルーンは想いを通わせます。特にルーンの言葉、「きみはぼくが、研究第一だと思うかもしれないけれど、きみのいない世界というのは、謎を解くだけの価値もないんだよ」はフィリエルと共に私の胸にも刻み込みました。
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【書評】萩原規子『西の善き魔女③薔薇の名前』の要約と考察/光輝く宮殿、ハイラグリオンへ

フィリエルは自分の居場所を求め、王宮(ハイラグリオン)へ向かいます。第二巻の女学校編から一転、ついに女王候補たちの戦いが始まります。また、一巻からずっと仄めかされてきた竜の存在、光の宮殿と対照的に隠された闇の世界が顔を覗かせます。フィリエルとルーンは、どちらも相手を守るために自らの信じる道を進もうとします。時にはすれ違い、諍いになっても、それでもお互いを大切に想い行動しています。第三巻ではそれが決定打になり別れを選択してしまうのがとても切ない展開ですね。第三巻はレアンドラの存在も鍵です。第一巻ではアデイルと同じ女王候補という名前だけ、第二巻では女学校の謎のシスター・レインとして、第三巻では遂にその艶めいた魅力が姿を現します。レアンドラは、対立候補アデイルとあらゆる意味で対照的に描かれています。華やかであらゆる人(特に男性)を引き付ける鮮烈な容貌、自信家で好戦的、自らが欲しいものは全て手に入れる強い意志。しかしただ嫌な女風に描かれている訳ではなく、何故かそれも魅力の内と感じるように、美しく見える異次元さがある女性です。
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【書評】萩原規子『西の善き魔女②秘密の花園』の要約と考察/送り込まれたのは、乙女たちの陰謀渦巻く秘密の園

舞台は「秘密の花園」トーラス女学院へ。トーラス女学院は、表向きは全寮制の厳粛で清らかな女子修道院附属学校。しかしその内情は、一部の特権階級の乙女たちが支配する陰謀渦巻く過酷な環境でした。そんな場所に貴族の行儀作法のお勉強よろしく放り込まれたフィリエルは、女学院を牛耳る生徒会に目を付けられ、悪質な嫌がらせを受けます。生徒会に対抗すべくフィリエルは、女学校の伝統である決闘で勝負を挑むことにしましたが――。一巻の雰囲気からがらりと変わり、女学校編へ。『西の善き魔女』は、巻ごとに全く異なる世界観を楽しめるのも魅力の一つです。二巻では、今後も活躍する人物たちが沢山初登場しますが、特別見どころの一つは、フィリエルとルーンの関係の進展でしょうか。一巻ではただの幼馴染でしか過ぎなかった彼らが、二巻では仄かな恋愛感情を覚え行動を起こし始めます。また二巻ではルーンの女装姿も拝めるのですが、フィリエルがあまりにも勇敢過ぎて、この物語のヒロインはルーンなのではないかと錯覚してしまうほどです。この二人の恋愛関係は、お互いがお互いを守ろうと奮闘しているのも良いですね。次巻はハイラグリオン(王宮)編、楽しみです!
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