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こんにちは、lamです。今回は『西の善き魔女』萩原規子・著についてご紹介します。
内容紹介
本のあらすじ
舞踏会の日に渡された、亡き母の首飾り。その青い宝石は少女を女王の後継争いのまっただ中へと放り込む。自分の出生の謎に戸惑いながら父の待つ荒野の天文台に戻った彼女を、さらなる衝撃が襲う。―突然の変転にもくじけず自分の力で未来を切りひらく少女フィリエルの冒険がはじまった。胸躍る長篇ファンタジー、堂々開幕。
(第一巻「セラフィールドの少女」あらすじ 中央公論新社より)
美しくも厳しいセラフィールドの地、
あかがね色の乙女と黒髪の眼鏡の少年は、居場所を追われ旅に出ます。
片や亡き母の首飾りを頼りに
片や異端の研究の末に
それは煌めく王宮へ、竜の住む森へ、
世界の果てまで――
この物語の主人公、フィリエルはいつでも真っ直ぐで、強い意志を持っています。
フィリエルの騎士ルーンは、いつまでもただ一人の女性を想っています。
物語を通して二人は互いにその身を案じ、相手を守ろうとし続けます。
そんな2人の想いは物語を創り、世界をも救います。
中公文庫版と角川文庫版について
加えて、『西の善き魔女』には色んな版が存在するのでそれについても少し。
大きく中公文庫と角川文庫の版がありますが、
違いとしては、装丁が異なるだけでなく、刊行順も異なります。
個人的には中公文庫版が好きです。
ファンタジー児童書装丁画の大御所である佐竹美保さんによる美しい装丁画、刊行順も時系列となっており、読みやすいかと思います。
角川文庫版は本編が1-5巻、外伝が6-8巻という構成です。
そして『西の善き魔女』にはコミカライズ版もあるのですが、そちらも素敵です。
桃川春日子さんの絵がとても合っていて、
より世界観を想像しやすく、『西の善き魔女』を見せてくれます。
こんな人におすすめ
色んな世界観の物語を一気に楽しみたい人
少女趣味な物語に惹かれる人
シリーズものを楽しみたい人
著者紹介
著者である萩原規子(おぎわら・のりこ)さんについて、
1959年東京都出身。『空色勾玉』でデビュー。2006年『風神秘抄』で小学館児童出版文化賞、産経児童出版文化賞(JR賞)、日本児童文学者協会賞受賞。その他の小説に、『RDGレッドデータガール』シリーズ『あまねく神竜住まう国』『荻原規子の源氏物語』完訳シリーズ等、多数の著書があります。
作風としては、ファンタジー色の強い児童文学を多く執筆しています。
『西の善き魔女』は、月刊コミックブレイドにてコミカライズ、2006年にはアニメ化されています。
※以下感想・考察。内容についてネタバレを含んでいます。未読の方はご注意下さい。
『西の善き魔女』の感想・考察
多彩な世界観
『西の善き魔女』シリーズは、巻ごとに全く様相が異なる世界観を持つことが魅力の一つです。
正統派ファンタジーからSF、学園もの、アラビアン・ナイトのテイストまで、巻を追う毎にその世界は姿を変えます。
しかし本書の凄いところは、様相が変わっても一つの物語としてしっかりと成立させているところです。
これだけ世界観が変わると読者は混乱するものですが、
それをものともせず読者を結末まで導く著者の筆力は素晴らしいと思います。
楽園の言葉
そして、もう一つこの物語を読み解く切り口としては、「楽園の言葉」に触れる必要があるでしょう。
「楽園の言葉」とは、作中では貴族のみが隠語として用いる禁忌の言葉です。
シンデレラ、ラプンツェル等の現実に存在する寓話の"仄めかし"として用いられています。
しかしそれだけではなく、『西の善き魔女』の物語全体を通して寓話は、意味深な役割を持ちます。
というのも、第二巻以降の副題には由来となる物語があります。
第二巻「秘密の花園」は言うまでもなくバーネットの『秘密の花園』。これはアメリカ児童文学の古典とまで言われる作品です。第三巻「薔薇の名前」はイタリアの作家ウンベルト・エーコによる『薔薇の名前』。これは中世の修道院で起こる「ヨハネの黙示録」をなぞる連続殺人事件を中心としたミステリです。第四巻「世界のかなたの森」はイギリスの作家ウィリアム・モリスによる古典ファンタジー。未知の世界を求めて旅に出た若者と仲間たちによる冒険譚です。第六巻「闇の左手」は、定期的に男性性と女性性が入れ替わる種族が暮らす星を舞台にし、対立項をテーマとしたアメリカのアーシュラ・K・グィンのSF作品です。
外伝として収められている「銀の鳥プラチナの鳥」(中公文庫版第五巻)、「金の糸紡げば」(中公文庫版第七巻)、「真昼の星迷走」(中公文庫版第八巻)の三編では『グリム童話集』との親和性が図られます。
女神アストレイアが統治するこの世界では、男が頂点に立つ世界を描くこれらの寓話は、野蛮で異端なものといえるでしょう。
ではなぜそんな寓話を副題にしたのか。
本作『西の善き魔女』は、
現実世界での寓話を、女王の統治する世界での寓話として仕立て直したものなのではないでしょうか。
そう考えると、この物語自体が寓話集のようにも感じます。
『西の善き魔女』との最初の出会いは中学か高校の頃。
当時嵌り過ぎて、ルーンの本名ルンペルシュツルツキンは何度も口ずさんで覚えました。
青春時代の思い出となる作品。本格ファンタジーともSF作品とも言えますが、
目くるめくような圧倒的な世界観に浸りたい方に是非おすすめです。
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